本研究課題では、インフルエンザウイルス(IFV)のヒトへの結合性を司るタンパク質と特異性を有するシアロ糖鎖を利用した半導体バイオセンサデバイスを作製し、パンデミックウイルスの結合性変異を見分ける手法の可能性を探索した。平成29年度は、昨年度得た知見である、センサ表面に固定化された糖鎖の鎖長や密度がIFV捕捉能に与える影響に関する知見を基に、混合糖鎖固定化界面のウイルス捕捉能を評価した。構造や長さの異なる糖鎖を組み合わせて固定化することで、ウイルス表面に存在するヘマグルチニン(HA)と糖鎖の結合量が変化し、それをコントロールすることでIFVの捕捉能が向上することが期待された。また、鶏またはヒトから採取した鼻汁等粘液中からIFVを検出することを想定し、気道粘液溶解剤による鼻粘液の粘度低下処理の有用性を評価した。L-エチルシステイン塩酸塩で処理したサンプルを糖鎖固定化電界効果型トランジスタ(FET)バイオセンサで測定したところIFV検出に伴う応答が確認された。これは、同処理による鼻粘液の粘度低下により、IFVの拡散速度を向上されたためであると示唆された。更に、糖鎖固定化FETバイオセンサの長期保存安定性を評価した。糖鎖固定化FETバイオセンサを一定期間保存した後HA添加に伴う応答を測定したところ、糖鎖固定化FETバイオセンサは保存後もHA認識能を有し、ターゲット検出が可能であることが確認された。抗体等のタンパク質を受容体として固定化した場合、室温・乾燥条件下では変性により立体構造が変化する一方で、糖鎖は室温・乾燥条件下においても立体構造が長期的に維持されたためであると考えられる。加えて、溶液中での長期安定性を有するFETバイオセンサ技術の開発やIFV等のターゲットを簡易に測定できるセンシングシステムの開発を進めた。
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