本年度は、マイクロメートルサイズの水滴(マイクロ水滴)内の溶質の濃縮率の制御法を確立した。まず、界面活性剤(Span 80)のヘキサデカン溶液を食塩水で洗浄することで、ヘキサデカン溶液に分散したミセル内の水の化学ポテンシャルと洗浄に使った水の化学ポテンシャルが等しくなるようにする。そして、そのSpan 80溶液とマイクロ水滴を接触させることで、マイクロ水滴内の水の化学ポテンシャルがミセル内と等しくなるまでマイクロ水滴が濃縮されることがわかった。また、生体分子の濃縮/分配を調べたところ、例えば昨年度報告したように分子量の大きいタンパク質(ウシ血清アルブミンなど)やナノ粒子はマイクロ水滴内に濃縮される一方で、20-30塩基程度の短いssDNAやリポソームはマイクロ水滴外へ出ていくことがわかった。 マイクロ水滴が一分子PCRや一細胞解析など、微量・高速・並列分析に広く使われる理由の一つは、マイクロ流体デバイスを用いれば均一な大きさのマイクロ水滴を生成できる点である。マイクロ水滴の大きさが均一で、マイクロ水滴間で試料量・試薬量・光路長等が等しいため、個々のマイクロ水滴同士の分析結果の比較・定量的解析が可能である。マイクロ水滴を用いた分析操作では、試料量が少ないため検出法がボトルネックとなることが多く、マイクロ水滴内包物の濃縮操作が検討されてきた。しかし、これまでに報告された濃縮操作では、濃縮率を制御することができず、マイクロ水滴分析操作の定量性が損なわれていた。一方、本研究では、濃縮率の制御が可能であり、マイクロ水滴同士での定量性が損なわれることがない。そのため本研究で実証した濃縮制御法は、マイクロ水滴を用いた多くの生化学分析システム利用可能な汎用的濃縮法となり、検出感度向上や新たな生化学分析操作の開発につながると期待する。
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