電圧トルクMRAM素子では書き込みを完了させるために電圧パルスを適切な時間で切らなければならないという問題があった。この問題を解決するため、ダンピングトルクを積極的に利用することで電圧パルスの許容時間を長くすることができる垂直磁化型MRAM素子を提案した。ダンピングトルクは、異方性磁界や外部磁界などを合わせた有効磁界の方向へ磁化を緩和させるトルクである。適切なダンピングトルクの大きさ(ダンピング定数)と電圧印加中の垂直磁気異方性定数を組み合わせた場合に、バイアス電圧を印加したままでも所望の反転後の磁化方向を保持することを見出した。このため電圧パルスの許容時間を長くすることができる。電圧印加中の垂直磁気異方性定数が満たすべき条件を表す解析式も得た。温度300 Kの熱擾乱がある環境であっても、体積が140×140×3.14×2立方ナノメートルの磁化自由層であれば、電圧パルスの許容時間が長い磁化反転が1万分の1程度の誤書き込み確率で実現可能であることが数値シミュレーションからわかった。本研究成果についてApplied Physics Express誌において論文発表を行った。 さらに平成28年度に提案した、高速・低消費電力な電流書き込みが可能な、二次の磁気異方性をもつ垂直磁化自由層のMRAM素子についての米国出願を登録査定に至らせた。平成29年度に提案した、電圧磁気異方性変化を用いた無磁界磁化反転制御が可能なMRAM素子については、外国特許出願を行い、国外での学会(SPIE Spintronics XI conference)で招待講演も行った。
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