研究課題/領域番号 |
16K17512
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
新家 寛正 千葉大学, 大学院融合科学研究科, 特任助教 (40768983)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | キラル結晶化 / 表面プラズモン / Optical Chirality / Superchiral field / 物質キラリティ制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、キラルなナノ構造体への円偏光照射により励起される強く捻れた表面プラズモン近接場中でキラル結晶化を誘起することで円偏光よりも効率的に結晶鏡像異性過剰を誘起し、鏡像異性過剰現象をOptical Chirality(OC)という光の螺旋ピッチの小ささに相当する量を基に解明することを目的としている。本年度の計画では、(1)電子線描画による卍型キラル金属ナノ構造体の作成(前例あり)(2)NaClO3水溶液に浸漬したキラル金属ナノ構造体への光照射によるプラズモニック光学捕捉誘起キラル結晶化の実現(前例なし)と結果得られる鏡像異性過剰率の評価(前例なし)(3)FDTD電磁場解析によるナノ構造体のOCの評価方法の確立(前例あり)と構造体の最適化を目標とした。 初めに計画(1)に取り組みこれを完了し、次に計画(2)に取り組んだ。その結果、キラル金属ナノ構造体に波長532nmの集光円偏光を照射すると、自然結晶化では得られない準安定相が集光点近傍で結晶化することが明らかとなった。晶出後、準安定相は母液の濃度に応じて、溶解するかもしくはオストワルドの段階則に従い安定相であるキラル結晶へ多形転移することが明らかとなった。また、合計120回の結晶化実験を行い、結晶鏡像異性過剰を調べたところ、統計的に有意なキラリティの偏りが見られることが明らかとなった。結晶化実験と並行して計画(3)に取り組み、FDTD電場解析ソフトPoynting for Optics(富士通)の電場解析データをもとにOCの二次元空間分布を計算するソルバーを開発した。今後は、計画(2)における表面プラズモン励起波長の最適化、OCを媒介変数としたナノ構造の最適化、OCの値を結晶鏡像異性過剰率の関係の調査、キラル分子の結晶化へ本手法の適用を実施していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度で計画していた(1)電子線描画による卍型キラル金属ナノ構造体の作成(2)NaClO3水溶液に浸漬したキラル金属ナノ構造体への光照射によるプラズモニック光学捕捉誘起キラル結晶化の実現と結果得られる鏡像異性過剰率の評価(3)FDTD電磁場解析によるナノ構造体のOCの評価方法の確立と構造体の最適化の内、計画(1)及び(3)におけるOC評価方法の確立に関しては完了し、計画(2)に関しては、ナノ構造への数十ミリワットの低出力光照射によりキラル結晶化を誘起することに成功し、また、再現実験の必要があるものの本研究の主要目的であるキラリティの偏りの誘起に成功した。加えて、ナノ構造への光照射により冷却法等の自然結晶化では成しえない、未飽和母液中での局所的な過飽和状態形成に伴う準安定相結晶化等の諸現象の誘起に成功した。この結果は、結晶化の時空間制御だけでなく多形制御法開発に貢献する実験結果である。この結晶化は、当初計画していたプラズモニック光学捕捉とは異なる機構で誘起されるものである可能性が高く、予想外の発見でもある。これは、今後プラズモニック光学捕捉による結晶化実現と今回観察された予想外の結晶化機構の解明という二つの異なる結晶化機構開拓の道筋を示すものであり、光による結晶化誘起法開拓研究の自由度を広げるものである。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
プラズモニック光学捕捉結晶化を実現するため、最適な励起光波長及び出力を探索する。並行して、FDTD計算によるOC評価とキラル金属ナノ構造の最適化及び最適化されたナノ構造の作成を行う。プラズモニック光学捕捉結晶化の実現の後、最適化されたナノ構造を用いて、キラル結晶化を誘起することにより、可能な限り大きな結晶鏡像体過剰率実現を目指す。その後、OCをパラメータとして鏡像異性体過剰率を調査することで、捻れた近接場の結晶キラリティ制御への効果を実証する。実証後、種々キラル分子の結晶化の系に本手法を適応し、実際に鏡像異性過剰が誘起可能か検証する。 また、今回観察された新しい結晶化機構の解明にも取り組む。機構解明後、NaClO3以外の化合物の結晶化を試み、多形制御が可能かどうか調査していく。
|