本研究では、キラルな金属ナノ構造体への円偏光照射により励起される強く捻れた表面プラズモン近接場中でキラル結晶化を誘起することで円偏光よりも効率的に結晶鏡像異性過剰を誘起し、鏡像異性過剰現象をOptical Chirality(OC)という電磁場のキラリティの尺度を表す量を基に解明することを目的としている。当初の平成29年度計画では、(1)キラル金属ナノ構造体のプラズモン近接場中で誘起されるキラル結晶化で得られる結晶鏡像体過剰率と近接場のOCの値の相関調査(2)キラル有機分子の結晶化への拡張を目標としていたが、研究進捗状況を加味し前年度の研究成果として得られた(1)プラズモニックバブル誘起キラル結晶化において鏡像異性過剰率の調査(2)プラズモン近接場光学捕捉による結晶化法の確立を目標とした。 目標(1)について、昨年度の段階では統計的に有意な鏡像異性過剰率が観測されていたが、現在再現性の問題が生じており、OCとの相関を調査する段階に至っていない。一方で、アキラルなプラズモン構造へ直線偏光を照射した際に起こるプラズモニックバブル誘起キラル結晶化において、一度の結晶化で得られる数100個のキラル結晶の鏡像体の利き手が揃いキラリティ対称性が大きく破れる現象を見出した(論文投稿中)。目標(2)について、アセトアミノフェン水溶液を結晶化母液として用い、母液薄膜に浸漬した金属ナノ構造体へ集光レーザーを照射すると集光点を中心として多結晶が円環状に析出・分布し、レーザー照射をとめると結晶が溶解する現象を発見した(論文執筆中)。この現象は分子クラスターのプラズモン光学捕捉による結晶化を示唆しており、近接場中での結晶化手法の確立に近づく成果である。今後は、本研究で見出されたプラズモン光学捕捉結晶化をキラル結晶化の系で実施することにより鏡像異性過剰率の評価を行う予定である。
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