研究課題/領域番号 |
16K17513
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
森本 勝大 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 特命助教 (90717290)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フィブロイン / ポリ尿素 / 薄膜形成 / 構造制御 / 圧電性 |
研究実績の概要 |
本研究ではポリ尿素薄膜を焦電性機能層とし、配向制御性向上のための配向誘起層としてシルクフィブロインを用いることで高配向かつ分極処理不要なポリ尿素薄膜作製を目的としている。昨年までにポリ尿素薄膜の作製および、薄膜へ応力や電界といった外力を加えることで分子構造を誘起し圧電・焦電性の発現に成功している。本年度は目的のフィブロイン薄膜上における配向誘起に必要不可欠な技術であるポリ尿素の自発的な構造制御を行った。昨年まで使用したポリ尿素とは異なる化学構造を持つ高分子材料を新規合成することで、従来不可能であった真空蒸着法を用いた高結晶ポリ尿素薄膜を成膜した(学術報告・特許出願済)。作製したポリ尿素薄膜は高結晶性かつ高度に分子配向した薄膜であり、加えて表面強度や誘電異方性においても優れた性質を示し圧焦電薄膜だけでなく、様々な応用展開に期待できる材料となった。 一方、昨年難航したシルクフィブロインの薄膜化を本年度は重点的に実施した。フィブロインの薄膜化には可溶化プロセス開発が不可欠であるため、各種溶媒や可溶条件の探索により溶液化を達成し、かつ2um程度の薄膜化に成功している。また、作製したフィブロイン薄膜の表面形状、高次構造状態や薄膜結晶状態を評価することで、従来報告例のある繊維状フィブロインと薄膜状フィブロインとの相違点を解析した。研究目的である配向誘起層として利用するためにはフィブロイン分子薄膜の二次構造を任意に制御する必要があるため、薄膜処理プロセスを検討した。その結果、圧電焦電性の発現に有利であるとされる、βシート構造の優先的な発現と薄膜分子構造や結晶構造の関係性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ポリ尿素薄膜の圧電・焦電特性は評価を終えており、温度依存性を合わせて測定することで、耐熱性に優れるポリ尿素の利点を生かすことができた。また、本年度の実績である化学構造を変えた材料系においては、非常に結晶性の高く、高度に配向した薄膜作製を確認している。この高結晶性薄膜は真空蒸着法で成膜しているため、自発的に高結晶性・配向性を示したと考えられる。フィブロイン配向誘起層上での薄膜形成において、自発的な構造誘起は不可欠であるため、研究全体の進捗に貢献した成果と考えている。 シルクフィブロイン薄膜においても、昨年難航した薄膜化に成功しており進捗が見られる。フィブロイン薄膜の成膜プロセスだけでなく、成膜後の構造誘起プロセスにおける薄膜構造の相関を解析できており、配向誘起層として期待できる結果であった。一方で構造誘起したフィブロイン薄膜において圧電性が確認されておらず、構造解析結果との相関が得られなかった。原因として分子構造や配向状態が関与していると考えられるが、より詳細な解析は次年度へ事業期間延長により対応する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度への事業期間延長が認められたため、下記内容を次年度実施する。 シルクフィブロイン薄膜の構造と圧電性の相関が得られなかったことを踏まえ、圧電性だけでなく誘電分散等の電気特性を併用することで、薄膜内部の物理的構造と電気的構造を詳細に解析し相関を解明する。これにより、圧電性発現に向けた構造最適化の糸口につながると考えており、最終的には圧電性を発現した配向誘起層としてポリ尿素薄膜の下地基板として利用を想定している。 また、未発表分の研究成果については、学術論文や学会発表において逐次報告していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は当初予定していた研究実施場所とは異なる場所での研究遂行となり、実験装置の移設・準備等に時間を要したため、研究遂行に若干の遅れを伴っている。そのため、使用予定の金額に達せず、次年度への繰越とした。 次年度では本年度使用予定であった物品購入や研究成果報告に使用を計画している。
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