研究課題/領域番号 |
16K17515
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 秀俊 宮崎大学, 工学部, 准教授 (00387854)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | GaAsN / Atomic Layer Epitaxy / Photo Reflectance / Dilute Nitride |
研究実績の概要 |
本研究では、希薄窒化物半導体であるGaAsN膜中の窒素(N)原子の空間分布と、エネルギーバンド中にN原子が作るN局在準位(E_N)との関係を明らかにし、E_Nの変化が電気特性に与える影響を知る事が目的である。 E_NはGaAsNのバンドギャップエネルギー(Eg)を決定づけるパラメータであり、これまで一定値として理解されてきた。しかし、我々はN組成の増加にともない減少することや、N組成が同じでも成長手法が異なると変化する事を見いだしている。E_NはEgを決定する値であることから、本材料の電気特性に大きく影響することが予想され、実際に先述の異なる成長手法で作製したGaAsN膜では、電気特性の向上を観察している。ここで、異なる成長手法とは、成長中のN原子の取り込み過程を変化させる手法であり、膜中のN原子の空間分布を変化させている事が期待される。したがって、膜中のN原子の空間分布が、E_Nに影響を与え、本材料の電気特性を決定していると考えられるが、これらの関係性は明らかになっていない。 そこで本研究では、原子1層単位でN原子混入量を制御可能な原子層エピタキシー(ALE)法をGaAsN膜作製に適用することで意図的に膜中のN原子の空間分布を制御した試料を作製し、N原子の空間分布、E_N、電気特性の相関を明らかにすることを目的としている。 本年度は、N原子の混入層を0,3,5層おきに制御した試料の作製を試みた。実際に作製した試料は、X線回折測定により超構造形成が確認され、想定どおりN原子の混入層制御が確認され、PR測定を行なった結果、E_Nを算出するために必要な信号が検出された。また、電気特性評価をおこなった結果、N原子分布が偏った薄膜では移動度が低下するが、成長後の加熱処理により改善した。これらの結果は、N原子分布のばらつきが移動度低下に影響し、加熱によりN原子分布が均一化した可能性を示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始年度(2016年度)に、ALE法の成長プログラムの更新を行い、GaAs層とGaAsNをそれぞれ1原子層成長させる原料供給シーケンスを任意に組み合わせた成長を可能とした。さらに、このプログラムを利用して膜中の平均N組成が同じで、N原子の混入層を0~3層おきに制御した試料の作製を試み、良好な結晶性を有することを確認した。ただし、平均N濃度が低く、E_Nを算出するためのフォトリフレクタンス(PR)測定では明瞭な信号は得られなかった。 そこで本年度(2017年度)は、成長条件を見直し、N原子の混入層を0-5層おきに制御した試料の作製を試みた。実際に作製した試料は、X線回折測定により超構造形成が確認され、想定どおりN原子混入層が制御できている。さらに、これらの薄膜はPR測定により、E_Nを算出するために必要な信号が検出されている。ただし、信号強度が弱く、より詳細な検出のためには、薄膜構造のさらなる修正が必要である。 また、N原子の分布が異なるGaAsN薄膜の電気特性評価として、キャリア移動度の測定を行なった。成長直後では、N原子の混入層を5層おきに作製した、もっともN原子の分布が偏った薄膜のみ、他と比較して低い移動度であった。この移動度低下は、成長後の加熱処理により他の薄膜と同等の移動度まで向上した。これは、N原子分布のばらつきが移動度低下に影響し、加熱によりN原子分布が均一化した可能性を示唆する結果である。 ただし、年度途中でALE装置に置いて原料が供給ライン中を逆流するトラブルが発生し、装置の分解洗浄および修理が必要となった。年度末期の2月には復旧し3月中に試作および再現実験を実施している。したがって、本研究課題の最終年度である来年度の研究実施には問題無く、今後の研究を加速させる予定であるが、現状ではALE装置トラブルによる試料作製中断により、当初の実験計画よりやや遅れてしまっていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度 前半 昨年度までの結果をもとに、PR測定に適したN原子の空間分布を制御した試料を作製しE_Nを測定する。さらに平均N濃度および成長温度を系統的に変化させつつN原子の空間分布を制御した試料を作製し、E_Nおよび電気特性を測定し比較を行う。この結果から、N原子の空間分布、EN、電気的特性を系統的に比較し、相関を明らかにする。 後半 30年度前半までの成果を踏まえて、電気的特性向上に最適なN原子空間分布を目指したGaAsN成長を試みる。E_Nおよび電気的特性の評価を継続し、高品質化の確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 進捗状況にも記述した通り、年度途中で装置トラブルが発生し試料作製が滞った。その結果、予定していた試料作製が行えなかった、さらに、関連して学会および論文発表の予定が遅くなった。これらに予定していた予算を次年度に繰り越したためである。 使用計画 年度前半に昨年度に予定して実験および学会発表および論文発表を集中し、年度中盤から後半にかけて当初に計画した通りの研究を進めることで、研究計画を変更し、予算執行を進める。
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