研究課題/領域番号 |
16K17518
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉本 真也 東京大学, 物性研究所, 助教 (90507831)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 液体金属 / 有機トランジスタ / 有機半導体 / 4端子電気伝導測定 / 表面・界面物性 |
研究実績の概要 |
本研究では液体金属探針GaIn探針を開発して独立駆動型4探針装置に用いることで、絶縁体基板上の有機単分子膜における電界印加時の電気伝導特性を明らかにすることを目的として研究開発を行った。 まず、金被覆W探針を支持材料として用いることで、これまで問題となっていた支持材との合金化およびGaInの凝集を防いだGaIn被覆探針を作製することに成功した。また、ゲート絶縁体上の試料との電気的接触を検出するために、ゲート電圧に交流電圧を加算することで、接触によるキャパシタンス変化を交流電流の変化として検出する機構を開発し、試料を破壊することなく探針配置を様々に変えながら電界印加時の電気伝導特性を測定することが可能となった。 これらを用いて高真空中で作製した単分子層ペンタセンの電界効果移動度の測定を大気曝露することなく行った。その結果、単分子層ペンタセンの移動度は多層ペンタセンと比べて非常に低く、さらにその移動度が1L程度と言う非常に少量の酸素曝露で80%以上も減少することが初めて分かった。比較のために測定した3層ペンタセン薄膜では移動度の減少は最大でも30%程度であった。単分子層と3層では不純物の与える影響が大きく異なり、特に単分子層の移動度が元々小さい要因として不純物や欠陥の影響が大きな要因となっていることを示す重要な結果であるといえる。 また、奈良先端大学山田研究室との共同研究で、溶液プロセスにより作製した結晶配向の揃った有機半導体薄膜TIPS-PENに対して電界効果移動度の面内異方性測定を行った。その結果、電界効果移動度の異方性が約40という非常に大きな値であることが初めて明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体金属GaIn被覆探針の開発、及びゲート絶縁体上の試料へのアプローチ機構開発が予定よりも早く完了したため、当初予定していた単分子層ペンタセンの電界効果移動度の気体曝露依存性だけではなく、次年度予定していた単分子層ペンタセンの光電子分光測定やAFM測定、さらに電界効果移動度の面内異方性測定においても結果が出始めている状況にある。 一方で、当初予定していた計画のうち、GaIn探針の先端径の縮小が遅れている。この理由としては、先端径の大きなGaIn探針でも非常に多くの結果が得られることが分かり、他研究機関との共同研究も行える状況になったことが挙げられる。 しかしながら先端径の縮小も重要な課題であり、共同研究においてもそのような要望が多いため、次年度にはまず先端径の縮小に向けた取り組みを行いたい。
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今後の研究の推進方策 |
前年度で遅れている課題として、GaIn探針の先端径を10μm以下程度に縮小することを目標に開発を継続して行いたい。 また、28年度に当初予定になかった溶液プロセスにより作製した有機半導体薄膜において、過去に全く報告されていなかった新たな電気伝導機構が測定されているため、予定を変更して溶液プロセスにより作製した試料に対し電気伝導の面内異方性測定を継続して行う。その後に、有機アクセプター分子を用いたドーピングによるエネルギーアライメント変化と電気伝導度変化に関する研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在までの進捗状況に記載したとおり、次年度に予定していた電界効果移動度の面内異方性測定を前倒しで行った一方、当初予定していたGaIn探針の先端径の縮小化が遅れているため、開発状況に応じて購入予定だった一部物品の購入も当初予定より遅れたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
現在行っている大気中におけるGaIn探針の先端径の縮小化がうまくいくようであれば大気中での作製に向けた治具の購入を、大気中では難しく真空中で行う場合には次年度予算と合わせて真空部品を購入する予定である。
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