研究課題/領域番号 |
16K17519
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇都宮 徹 京都大学, 工学研究科, 助教 (70734979)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光還元 / グラフェン / 窒素 / 真空紫外光 |
研究実績の概要 |
酸化グラフェン(GO)の光還元法はグラフェンデバイスの実用化に向けて期待が持たれている.本研究では光還元に加えて,異種元素を添加することで電子状態を制御した酸化グラフェン還元体(rGO)を簡便に作製するプロセス開発を目指している.本年度において得られた成果は以下の通りである. 1. GOの水分散液に尿素やアンモニア水を混合するだけでGOシートに窒素が結合することを見出した.これまではプラズマ処理など複雑かつ高価な装置が必須であったが,簡便にGOシートに窒素ドープする手法を実証した.赤外吸収スペクトルからGOシート面内のエポキシ基が前駆体と優先して反応することが示唆された. 2. 窒素単体のみならず,ホウ素と窒素を共ドープしたrGOの作製に成功した.水分散液に各前駆体を混ぜるだけで複数種の元素をドープできることを示した.GOに結合したアミノ基が前駆体に含まれるホウ酸と相互作用する可能性が示唆された. 3. 光還元の際に用いる光の波長によって,添加元素の結合様式やシート厚が異なることを発見した.X線光電子分光(XPS)測定結果より,真空紫外(VUV)光による還元ではUV還元に比べ,pyridinic Nの割合が増加したことから,添加元素の結合様式が波長で制御できる可能性を見出した.また,これまでは光還元することでシート厚が減少すると考えられてきたが,XPSなどで得られたVUV還元rGOとUV還元rGOの還元度が同等にも関わらず,VUV還元rGOのシート厚がより小さいことを発見した.これまでに提唱されてきたGOの構造モデルでは波長に依存したシート膜厚を説明できないことから,構造モデルの再構築に向けた研究を行う必要性が判明した.GOの構造モデルは異種元素添加を制御するための指針になる可能性が高く,次年度も引き続き検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,窒素ドープしたrGOの作製プロセスについて,窒素をGOシート面内に導入する段階を確立できた.さらに,光還元を行う際の波長依存性が添加元素の結合様式やシートの膜厚に影響することを見出した.本研究で目指しているヘテロアトムドープグラフェン作製のプロセス確立に必要な基礎的知見が着実に得られており,概ね順調に推移していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は前年度に培った知見を元に,ヘテロアトムドープグラフェンの電気特性解析に重点をおく.既にシリコン基板を用いた電界効果トランジスタ(FET)特性解析を初めているが,各種作製条件とFET特性の相関を明らかにすることを目指す.さらに,ポリマー表面へのヘテロアトムドープグラフェンシート固定化を推進し,フレキシブルデバイスへの応用可能性を探索する. さらに,GOの構造モデルを再検証し,ドープ量や結合様式の制御に向けた指針を得るために,AFMを用いた構造解析やGO表面の力学特性解析を並行して遂行する.
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究と消耗品を共通化することで節約に努めたことも1つの要因であるが,前駆体の探索が予想以上に簡単にできたことが主な要因である.
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次年度使用額の使用計画 |
AFM測定のための消耗品であるカンチレバーがこれまで以上に必要となる.また,取りまとめに向けて研究を加速することから,光還元に用いるVUVランプの交換部品購入が必要となる.次年度の研究費と合わせてこれらの消耗品を中心に使用する予定である.
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