近年新技術創発の必要性が増している情報通信デバイスの中でも不揮発性メモリ、抵抗変化型メモリ(ReRAM)は特に重要な技術であるが、様々な障壁があり本格的な実用化が困難な状況である。最も大きな課題は、(1)書き換えの繰り返しにより生じるデバイスの劣化、および(2)不十分な特性である。本研究では電解放出型トランジスタ(FET)構造を採用することでJoule熱による劣化を受けず(高繰り返し耐性・高信頼性)、さらにイオン伝導層と電子伝導層を分担化しそれぞれを高性能化することによって飛躍的な特性向上(高速動作、高抵抗変化)を実現することを目指した。昨年度はイオン伝導層として十分なデバイス特性が期待出来る比較的高い伝導度の酸化物薄膜の成膜をリチウムイオン、プロトン伝導体それぞれについて成功していた。今年度は(1)イオン伝導層と組み合わせることでデバイスを構成する高品質な電子伝導性薄膜の成膜、及び(2)それらを用いたトランジスタデバイスの作製を行った。まずプロトン・電子混合伝導性を示すWO3薄膜をのLaAlO3単結晶基板上への配向成長した。これを用いてプロトン挿入・脱挿入、及び酸素量変化を利用可能な酸化還元トランジスタを作製すると、数100mV程度の電圧で動作し高い可逆性を示した。次に、強相関酸化物SrVO3に注目し、酸化物単結晶基板にエピ成長することで歪みの影響を受けたSrVO3薄膜を成膜した。これを用いて、リチウムイオン伝導性薄膜、プロトン伝導性薄膜と組み合わせて酸化還元型トランジスタを作製した。同じ1価のカチオンであるにも関わらず挿入カチオン種に依存して電気特性に劇的な変化が観察され、挿入カチオン周辺の局所構造による移動度への影響が示唆された。イオン種や歪みを最適化することにより電気特性のより幅広い制御の可能性が示された。これらについて論文出版及び口頭発表を行った。
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