研究課題/領域番号 |
16K17521
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
稲見 栄一 千葉大学, 大学院融合科学研究科, 特任講師 (40420418)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 太陽電池 / 表面・界面物性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、原子間力顕微鏡を基盤に時間分解走査プローブ顕微鏡システムを構築した。現在、装置の構築はほぼ完了し、今後、測定原理の実証を行う段階にある。一方、本装置で測定の対象となる各試料に対して、以下の研究を行い、一定の成果が得られた。 (1)超ナノ結晶ダイヤモンド薄膜における電界電子放出特性の向上化 超ナノ結晶ダイヤモンド(UNCD)薄膜は、優れた電界放出(FE)特性から次世代の冷陰極材料として注目されている。今年度は、走査型トンネル顕微鏡/原子間力顕微鏡複合装置(AFM/STM)を用いて、熱処理やイオン注入によりUNCD薄膜のFE特性が飛躍的に向上する現象をナノスケールで確認し、そのメカニズムを明らかにすることに成功した。本成果の内容は、学術論文として取りまとめた。 (2)下地層の改質によるペロブスカイト太陽電池の高性能化 ペロブスカイト系材料を用いた太陽電池は、低コストで簡便に量産可能でありながら、シリコン系太陽電池に迫る変換効率が期待できることから、大きな注目を集めている。今年度は、ペロブスカイト層の下地となる多孔質金属酸化物層を従来の酸化チタンから酸化ニオブへ変更し、その諸特性を研究した。その結果、酸化ニオブを用いた際に、①ペロブスカイト層の膜質が向上する、②ペロブスカイト層-金属酸化物層界面における光励起電子輸送が効率的に行われる、ことを明らかにした。さらに、酸化ニオブを用いた際には、太陽電池としてのエネルギー変換効率も大幅に向上することを確認した。本成果は現在論文として取りまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
時間分解走査プローブ顕微鏡に関しては、当初の予定通り、構築が完了した。一方、構築した装置の性能は、未だ実証されていない。一つは、装置を構成する任意波形発生器が故障したため、その修理に一定の期間を費やしたことが挙げられる。 一方、今後、本装置で測定の対象となる超ナノ結晶ダイヤモンド薄膜およびペロブスカイト太陽電池の研究に関しては、一定の結果が得られた。特に、ペロブスカイト層の下地となる多孔質金属酸化物層の改質により、太陽電池としてのエネルギー変換効率が、大幅に改善されることを見出したことは、重要な成果として挙げられる。このようなエネルギー変換効率の向上は、光励起キャリアの緩和過程と密接に関連していると考えられ、平成29年度に実施する励起キャリアダイナミクスの時間分解測定において実証が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に構築した時間分解走査プローブ顕微鏡の測定原理を実証する。現在、装置の構築はほぼ完了しており、シリコン基板を用いて、正常な信号が検出されるところまでは確認している。今後、試料としてペロブスカイト太陽電池を用いて、本装置の時間分解顕微鏡としての性能を調べ、その諸性能(時間分解能・S/N比)について検討を行う。 一方、上記計画と並行して、対象試料となるペロブスカイト太陽電池の作製条件を最適化も行う。現在、本装置の測定原理を実証する上で、高性能なペロブスカイト太陽電池を再現性良く作成できないことが課題として挙げられる。今後、平成28年度に行った情報収集を基に、電池作成環境の改善、作成方法の一部見直しを行う。また、真空蒸着法を利用した電池作成についても検討を行う。
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