本研究では、走査トンネル顕微鏡(STM)と原子間力顕微鏡(AFM)の複合装置を基盤に、ナノメートル領域に生じた励起電子・正孔の緩和課程を測定する手法(時間分解走査プローブ顕微鏡:TR-SPM)の開発を行う。具体的な研究の柱は以下の二点にある。 (1)TR-SPMの構築を行い、その動作検証を行う。 (2)TR-SPMにより、局所電荷の緩和過程を計測可能か検証を行う。 平成28年度は、(1)TR-SPMの構築を行った。本装置は、①AFM/STMと、②プローブ電圧出力システム、から構成される。①には、光干渉方式の超高真空 AFM/STMを用いた。導電性カンチレバーには、SiをPt-Irで被覆したものを採用した。AFM測定には周波数変調方式を採用した。一方、②は、パルス電圧出力用の任意波形発生器、およびカンチレバー振動に同期させたパルス電圧をモニターするオシロスコープから構成される。パルス電圧の振幅・遅延時間は、自作プログラムにより制御した。動作検証の結果、本装置により、89 ナノ秒の時間幅を有するトンネル電流(ポンプ電流)を探針-試料間に流せることを確認した。 平成29年度は、TR-SPMで、(2)局所電荷の緩和過程を測定可能か検証した。半導体表面をテスト試料に用いた実験から、過渡的な局所電荷に伴う静電気力の変調を周波数シフトとして検出することに成功した。しかしながら、金属表面を用いた実験から、静電気力の変調は、探針へ注入された電荷に由来する(つまり本装置は、探針に注入された局所電荷の緩和を計測している)ことが明らかとなった。本結果は、注入された電荷が、探針表面の不純物等に捕獲されていることを示唆する。この課題解決には、現在の探針清浄化処理(イオンスパッタリング法)を改善する必要がある。今後は、上記の研究結果を論文にまとめると共に、電子衝撃法も含めた探針の清浄化を検討する。
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