本研究は放射光マイクロビームを用いたX線回折測定により、窒化物半導体ヘテロエピタキシャル成長中の転位の挙動や格子ひずみの緩和の様子を観測することを目的としている。前年度まではフレネルゾーンプレートによる1マイクロメートルサイズのビーム形成技術の確立および窒化物半導体基板での測定手法の確立を実現した。本年度は量子ナノ構造として将来有望であるナノワイヤ構造においてその場X線回折測定を実施した。 実験は大型放射光施設SPring-8のビームラインBL11XUの結晶成長その場X線回折装置を用いた。分子線エピタキシー法によりIn組成30%程度のInGaN/GaNナノワイヤ成長中にX線回折測定を行い、InGaNの格子ひずみの変化を調べた。微小サイズのナノワイヤからのX線回折を高感度に測定するためには高強度のビームが必要である。したがって、本年度は放射光のビームサイズを小さくするよりもビーム強度を高くすることを目的に、前年度までに使用してきたフレネルゾーンプレートではなく、試料手前に設置した4象限スリットによって100マイクロメートル角のビームを用いた。 GaNナノワイヤ上のInGaNの成長初期は、GaNの格子に対して圧縮ひずみを保ったまま完全に歪んで成長することが分かった。その後、InGaNの長さが3ナノメートル程度に達した時に、圧縮ひずみの緩和が始まり、9ナノメートル程度で完全に緩和されることが分かった。さらに興味深いことに、圧縮ひずみの緩和が始まる長さ3ナノメートル程度から、ウルツ鉱構造だけでなくジンクブレンド構造に対応する新たな回折ピークが現れた。このことから、InGaN/GaNナノワイヤでは圧縮ひずみの緩和が始まるとともにウルツ鉱構造とジンクブレンド構造が混ざる構造多形を示すことが分かった。
|