フィラメンテーション現象を利用して、生体試料を励起するための深紫外超短パルス光源の開発を行った。フィラメンテーションガスセルの圧力およびフィラメント長の最適化により、フィラメント中でのパルスの自己圧縮現象を世界で初めて深紫外域において実現し、深紫外超短パルスをガスセルから直接得ることに成功した。得られた15fsというパルス幅は、これまで実現されたサブmJ深紫外パルスの中で最も短いものである。 真空紫外レーザーを用いた時間分解光電子分光により、ニトロメタン(CH3NO2)の解離反応ダイナミクスの解明を行った。ππ*励起後、ニトロメタンは超高速の解離反応を起こすことが知られている。ニトロメタンの電子状態と、解離生成物NO2の電子状態とが相関していることが理論的に予測されているため、NO2の電子状態分布が測定できれば解離反応のメカニズムが議論できる。実験の結果、ニトロメタンのS3→S2→S1の内部転換がまず24fs以内で起こることが分かった。NO2の電子状態分布については、NO2(A) とNO2(X)とが同程度生成していた。解離反応は主としてS1ポテンシャル曲面上で、<50fsの時定数で進行することが分かった。 真空紫外レーザーを用いた時間分解光電子分光により、ベンゼン及びそのメチル誘導体(トルエン、o-キシレン)の超高速無輻射緩和過程の解明を行った。S2電子状態を光励起した後の反応ダイナミクスに関して、先行研究のab initio計算で予測された経路の通りに反応が進行すること、予測された反応時間が正しいことが実験的に確認された。また、メチル化によりS1ポテンシャル曲面上の波束運動に要する時間が延びたことから、S2/S1、S1/S0の二つの円錐交差の間の幾何的相違がメチル化により大きくなったと考えられる。
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