研究課題/領域番号 |
16K17530
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
加藤 康作 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 特任研究員 (40751087)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 金属インク / 分割リング共振器 / プラズモン共鳴 |
研究実績の概要 |
2016年度は本研究の課題であるマイクロ構造とナノ構造を併せ持ったテラヘルツ波発生体の原理実証として、テラヘルツ波帯に共鳴をもつ数十μm程度の大きさの分割リング共振器(リングの一部にギャップをもつ構造)上に近赤外光にプラズモン共鳴をもつ100nm程度のランダム構造を有する試料を金属インクで作製し、レーザーを照射したときに発生するテラヘルツ波の特性を調べた。 銀ナノ粒子インクを合成石英基板に塗布して220℃で焼結することで、近赤外光が共鳴をもつランダムな金属ナノ構造を表面に自発的に形成させた。その後この金属膜の一部をレーザー加工で削り取って、テラヘルツ帯に共鳴をもつ分割リング共振器を並べた構造の試料を作製した。中心波長800nmのフェムト秒レーザーパルスを45度入射で作製した試料に照射し、反射方向に放出されるテラヘルツ波のスペクトルを電気光学サンプリング法により測定した。 分割リング共振器構造をもつ試料から放射されたテラヘルツ波のスペクトルにはピークが現れ、その周波数はリングの大きさや向きによって変化した。このピークの周波数を、テラヘルツ波時間領域分光法で測定した透過スペクトルから得たリングの共鳴周波数と比較した。ギャップがレーザー光の入射面に平行(垂直)な向きにリングを向けたときの放射スペクトルのピークの周波数は、ギャップが入射するテラヘルツ波の偏光に平行(垂直)なときのリングの共鳴周波数とおよそ一致することが確かめられた。レーザー照射で金属ナノ構造にプラズモン共鳴が起きると表面の電場が増強されて非線形分極が効率的に誘起されるが、本試料ではリングが共鳴する周波数成分がより大きく分極して他の周波数より強いテラヘルツ波を放出したと考えられる。 本成果は第64回応用物理学会春季学術講演会にて発表されたほか、2017年度に国際会議での発表が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属インクによるマイクロ構造とナノ構造を組み合わせた試料の作製に成功し、レーザー照射実験において期待した通りマイクロ構造の共鳴周波数付近にピークをもつスペクトルのテラヘルツ波の放射が確認できたことから、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
マイクロ構造での共鳴をより効率的に起こすために、励起レーザーとして波長800nmの光とその2倍波の波長400nmの光を同時に照射することで試料面に平行な方向の対称性を破り、放射されるテラヘルツ波スペクトルを測定して波長800nmの光のみの励起の場合と比較する。また、分割リング共振器以外のマイクロ構造についても研究を進める。まずは平面カイラル構造を金属インクで作製し、楕円偏光したテラヘルツ波が発生できるかどうか確かめる。さらに、テラヘルツ波発生過程以外の非線形効果への応用として、試料にテラヘルツ波とレーザー光を同時に照射することでテラヘルツ波の増幅・変調が可能かどうか試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は当初計画していたいくつかの構造の試料のうち分割リング共振器をもつ試料の評価に専念し、他の構造をもつ試料の作製はあまり進めなかったため未使用分が生じたが、次年度に新たな試料作製とその評価を実施する。
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次年度使用額の使用計画 |
分割リング共振器以外の構造をもつ試料を新たに作製するための金属インクや基板、およびその評価に必要な光学素子の購入に使用する予定である。
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