研究課題/領域番号 |
16K17536
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高松 利寛 神戸大学, 医学研究科, 学術研究員 (10734949)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 小型プラズマ源 / 低温プラズマ / 内視鏡 / 止血 |
研究実績の概要 |
本研究では,プラズマによる血液凝固のメカニズムの解明と,内視鏡下の止血装置として実用化の指針を得ることを目的として,申請者らが開発してきたプラズマ源の基本設計と3Dプリンター技術を融合し,平成28年度では1)超小型の温度制御マルチガスプラズマ源の開発,2)各ガス種のプラズマから生成される活性種調査,3)血液凝固効果の調査を実施した。 1)従来のプラズマ源は切削加工が可能な構造でしか作成できなかったが,申請者らは3Dプリンターを用いることにより,内視鏡の直径3.2 mmの鉗子口に導入できるほどの超小型なプラズマ源を開発した。直径3.2 mmは処置用の胃カメラ,大腸カメラのどちらの鉗子口にも導入できるサイズであるため,食道,胃,十二指腸,大腸での止血実験が可能となった。また,このプラズマ源は,様々なガス種でプラズマが生成でき,入力電力により温度の変化が認められた。 2)各ガス種のプラズマから生成される活性種調査として,様々なガス種でプラズマを生成し,電子スピン共鳴を用いてOHラジカルを測定した。その結果,ガス種によって生成される活性種の種類や量が大きく異なり,OHラジカルはヘリウム,窒素のプラズマから最も多く生成され,その濃度は約30 μMであった。 3)一般的なジェット状のプラズマ源でさえ,主にヘリウムを用いて血液凝固の研究がされており他のガス種のプラズマを用いた調査はほとんどおこなわれていない。そこで,今回開発した内視鏡用のプラズマジェットでアルゴン,ヘリウム,窒素,二酸化炭素,酸素のガス種を変化させて血液凝固効果を調査した。その結果,どのガス種も血液凝固効果は大きく変わらなかった。そのため,生体吸収性の優れた二酸化炭素がプラズマのプロセスガスとして選択することが好ましいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度では当初より予定されていた超小型の温度制御マルチガスプラズマ源の開発,各ガス種のプラズマから生成される活性種調査および血液凝固効果の調査を実施した。その際,内視鏡の直径3.2 mmの鉗子口に導入できるほどの超小型なマルチガスプラズマ源の開発に成功し,さらに,そのプラズマ源を用いて,各ガス種のプラズマから生成されるOHラジカル量を測定し,in vitroでの血液凝固効果も検証し,それらの結果から今後の指針を得た。そのため,概ね平成28年度の研究計画を消化することができたといえる。 また,平成29年度では4)マウス・ブタの止血効果の検証5) 生体への影響調査を行う予定であるが,最もハードルの高いと考えられるブタを使った内視鏡下での止血実験に関しては,内視鏡下でプラズマが使用可能かどうか,及び内視鏡下で粘膜層に均一な出血点を作り出せるかどうかが挙げられる。しかし,予備実験により内視鏡下でプラズマが生成されることが確認されており,内視鏡下で生検鉗子を用いて粘膜層を傷つけると数分間は出血が止まらない出血点を作り出せることも分かっている。 また,従来法との比較として,アルゴンプラズマ凝固装置(APC)が必要であるが,ERBE製のAPCを動物実験施設内で借りることができるため,高温プラズマ処理と低温プラズマ処理で組織損傷の度合いを顕微鏡的に調査することが可能である。 そのため,現在予定している動物実験において円滑に止血実験を行うことができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度では,前述の1)~3)から発展して4)マウス・ブタの止血効果の検証5) 生体への影響調査を行う。 4)マウス・ブタの止血効果の検証に関しては,現在,出血部に対する低温プラズマの処理により,止血効果が得られることが明らかになっている。ブタの肝臓に対する止血実験を行ったところ,通常血液の凝固に数分かかるところが,プラズマ処理により15秒程度で凝固し,止血できることが明らかにされている。本研究では開発したプラズマ源を用いてプラズマの生成条件を設定し,マウス及びブタに対する止血効果を調査する。具体的には,動物の組織にメスなどの器具を用いて創傷を作り出血を人為的に生じさせた後,各条件のプラズマを創部に当てることで,血液凝固効果と止血効果の相関を調査する。ブタを用いる場合は,腹腔鏡下や消化管内視鏡下の止血効果も検証することができる。そこで,止血する症例を模擬して内視鏡用スネアを用いて肝臓等の臓器や消化管の粘膜に出血部を作りだし,用途に合わせて設計したプラズマ源でそれぞれ出血部に対してプラズマ処理することによって止血効果を調査する。 5)生体への影響調査については,申請者らは以前にプラズマによる生体の損傷の有無の調査として,粘膜組織であるブタの角膜に対して各温度のプラズマ処理を施し,顕微鏡観察を行った。その結果,温度制御をしないプラズマ処理では,組織の損傷が確認され,適切なガス温度で処理する必要性が示唆された。このとき,温度制御をしないプラズマのガス温度は50℃程度であったが,本研究では組織に影響を及ぼすプラズマのガス温度を詳細に調査する。また,各臓器ごとに低温プラズマによる止血処理と従来の熱凝固法による止血処理で創部とその周囲組織への影響を,治癒経過の観察や顕微鏡観察により比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度にて論文を投稿し,論文投稿費用が3月末にオープンアクセスのため2000ドルほど発生すると予定していたが,年度を跨いだため。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度にて論文がアクセプトされた際,使用する予定である。
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