研究課題/領域番号 |
16K17540
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
松村 大樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, 研究主幹 (30425566)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | X線吸収分光 / 局所歪 / 分散型光学系 / Debye-Waller因子 / ニオブ酸化物 / ペロブスカイト型構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、機械的に動く機構が無いという分散型光学系によるX線吸収分光測定の特徴を活かして、局所歪変化の精密測定を行うものである。二年目に当たる平成29年度においては、分散型光学系に対して安定化作業を実施すると共に、実試料に対して温度変化局所歪測定を行った。 安定化作業に関しては、分散型光学系の主要素である湾曲分光結晶を覆うチェンバーに対して、断熱及び耐放射線対策を実施した。加えて、冷却系の水配管の見直しも行い、より冷却水が安定して循環するようなシステムを構築した。結果、湾曲分光結晶から発生する分散X線の時間安定性が向上し、1時間の連続X線吸収分光測定において、最も安定性の高いエネルギー領域では、エネルギーシフトを0.01 eV以下に抑えることに成功した。 温度変化に対して構造相転移をおこす各種ペロブスカイト型ニオブ酸化物に対して、局所歪の精密測定を行った。具体的には、分散型光学系によるX線吸収分光の連続測定を50 Hz程度のフレームレートで行い、温度に対しては室温から20 Kまで10 K/minの一定勾配で冷却して、温度依存X線吸収分光データを得た。一連のデータに対して、独自に開発した連続X線吸収分光解析プログラムを用いて、ニオブ原子と最近接酸素原子との結合におけるDebye-Waller因子を抽出し、その温度変化を評価した。Debye-Waller因子は局所歪と直結しているX線吸収分光パラメータである。結果、これまで考えられていたものよりも広い温度領域において局所歪が緩やかに変化していることを示唆するデータが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、分散型光学系によるX線吸収分光測定の高度化を行う事で、局所歪の精密測定を観測するものである。分散型光学系の高度化に対して、主に時間安定性の観点から、湾曲分光結晶の恒温化に取り組んだ。分光結晶の温度変化の時間安定性の向上に関しては、比較的早期に対応できた。一方、湾曲分光結晶内に生じている湾曲歪の存在が、得られるX線吸収分光データの質を落としていることが明らかになり、この解決に時間を要した。結果として、分光結晶をホルダーに張り付ける際の方策を工夫することで、比較的湾曲歪の少ない湾曲分光結晶を実現することができた。 現在の評価としては、大きな課題は解決しているものの、上記の通り湾曲分光結晶の改良に予想以上の時間を費やしてしまい、結果として実試料の測定に多くの時間を割くことができず、予定よりもやや遅れているものと捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在の状態としては、本研究の要である分散型光学系によるX線吸収分光測定システムの高度化はほぼ完了したものと捉えている。今後の研究の推進方策としては、ニオブ系酸化物に対する温度変化X線吸収分光測定を、各種条件下にて実施することが第一である。 分散型光学系の高度化は平成29年度までの期間において実現することができた一方、残された課題として、X線吸収分光測定用ペレット内に残存する濃度及び厚みムラの問題がある。三年目であり最終年度である平成30年度においては、堆積法によるペレット作成を実施する。堆積法によるペレット作成は手間が格段にかかるものの、濃度及び厚みムラを低減できる可能性があり、その評価を行う。 これまで得られた成果に対して、X線吸収分光国際会議に参加して、成果を報告すると共に、最新のX線吸収分光測定に関する発表を聴講し、今後の研究展開につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に購入した自動ステージに関して、システム設計及び仕様を改めて見直した結果、当初の予定よりも安い価格において目的が実現できる目途が経ったため、物品費に余剰が生じた。余剰分を平成29年度の旅費に宛がう予定であったが、実験の進捗に多少遅れが生じたため、計画していた学会発表を全て実施することができず、結果として物品費の余剰を全て使うことができなかった。 次年度である平成30年度においては、これまで得られた成果に対して、X線吸収分光国際会議において発表予定であり、次年度予算の大部分を当該学会参加のための旅費及び参加費として使用する。
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