本申請研究は、分散型光学系を持つX線吸収分光(XAFS)測定システムに対して光学系の安定化作業を行うことで、高い相対精度を持ったXAFSスペクトルを連続的に取得し、特に温度変化に対してのXAFSオリジナルパラメータともいえるDebye-Waller因子の精密測定を目指すものである。 最終年度である平成30年度においては、各種ニオブ酸化物を対象として、室温から20 Kまで一定勾配で降温させながらXAFSスペクトルを連続測定し、Debye-Waller因子の温度依存性の精密測定を実施した。 Debye-Waller因子は、原子間距離の平均自乗相対変位に相当するパラメータで、局所歪に敏感なパラメータであり、XAFS法以外では決定することが難しい、XAFSオリジナルともいえる構造情報である。測定対象としたニオブ酸化物は、ペロブスカイト型構造を持ち、ニオブ原子がペロブスカイト型構造のBサイトを占有しているものを選択した。これらは、室温から20 Kまでの間において、いくつかの相転移点を持っている。温度をゆっくり変化させながらDebye-Waller因子の精密測定を行うことで、相転移温度近傍における局所歪の変化の様子を観測することを目論んだ。 湾曲分光結晶と位置分解型検出器からなる分散型光学系によるXAFSスペクトルの連続測定は、大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL14B1にて実施した。平成29年度までに整備した新規計測システムを用いて、ニオブ元素と酸素元素との結合におけるDebye-Waller因子の温度依存性を測定した。結果、いくつかのニオブ酸化物においては、相転移温度近傍の幅広い領域にわたってのDebye-Waller因子の上昇を観測した。今後は、データ解析をさらに進めることで、試料間の局所歪変化の違いを明らかにし、相転移機構との関連性について議論したい。
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