本研究では,移動管法を用いて気相中のミュオン移動度測定を行うことで,ミュオン-中性気体分子間の熱エネルギー領域における運動量移行断面積を導出して希ガスや二原子分子衝突におけるベンチマークデータを作成することや,量子力学的散乱現象に起因する断面積の振動構造を検証することが目的である. 平成30年度の研究期間では、J-PARC物質・生命科学実験施設ミュオンSラインにて平成29年度に実施された崩壊陽電子軌跡検出器付き移動管を用いたヘリウム気体中におけるミュオン停止位置分布測定のデータ解析を進めた.その結果,移動度の最大値に制限をかけることに成功した.移動管内の平均的な衝突エネルギーに相当する実効温度が320 Kにおいてヘリウム気体中における正ミュオンの換算移動度は,150 cm^2V^-1s^-1以下であることが分かった.これは,水素ヘリウム間のポテンシャルエネルギー曲面を用いた古典的運動量移行理論による計算値である85 cm^2V^-1s^-1を範囲に含んでおり,室温領域の衝突現象ではミュオンは水素の同位体と見なしても差し支えないことが示唆された.
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