研究課題/領域番号 |
16K17555
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研究機関 | 北九州工業高等専門学校 |
研究代表者 |
谷口 茂 北九州工業高等専門学校, 生産デザイン工学科, 准教授 (00626880)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 数理工学 / 非平衡熱・統計力学 / 多原子分子気体 / 衝撃波 / 数値解析 / 拡張された熱力学 / 圧縮性流体 / 混合気体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多原子分子気体に対する「拡張された熱力学」 (ET) 理論に基づく、非線型波動の解析方法を提案し、強い非平衡状態にある波動の性質を統一的な観点から明らかにすることにある。本年度を三年間にわたる研究の基礎作りの年度と位置づけ、以下の研究を行った。 (1) 多原子分子希薄気体中の衝撃波構造 (衝撃波の波面近傍における、物理量の急激な変化) の解析:(1-1) 二酸化炭素気体中を伝播する衝撃波構造の解析を行った。特に、高マッハ数の場合特有の変曲点を持つ衝撃波構造や、非平衡温度のオーバーシュートの性質について、明確にした。(1-2) 単原子分子希薄気体極限における衝撃波構造を解析した。多原子分子気体に対するET理論が単原子分子気体に対する従来のET理論を特別な場合として含むという、理論的考察の裏付けを得るとともに、その漸近挙動を明らかにした。 (2) リーマン問題の解析:リーマン問題の解析を通して、衝撃波、希薄波、接触波の三種類の基本的な非線型波動を同時に解析する準備を整えた。具体的には、長時間の時間発展を十分な精度で解析できるよう、必要な計算機を導入し、ET理論の場の方程式を適切に解析できる並列計算プログラムを作成した。現在、それを用いた大規模計算を進めつつある。 (3) 混合気体中を伝播する非線型波動の解析:混合気体に対するET理論が持つべき数学的な構造を明確にし、最も簡単な場合における場の方程式の導出を行った。得られた方程式系を基礎にした、衝撃波構造の解析に着手した。 (4) サブショックに関する解析:これまで、衝撃波の伝播速度が方程式系の最大の特性速度を超える場合にのみ、不連続面(サブショック)が現れるという予想が立てられていた。ET理論の要請を満たしつつこの予想に反するトイモデルの構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に研究が進んでおり、本研究の確実な基礎ができつつある。具体的には、上述の各項目について、以下の特筆すべき点がある。 (1) 多原子分子希薄気体中の衝撃波構造に関する成果は注目を集めており、気体分子運動論に基づく数値計算を専門とする他グループにより、独立に検証が行われた。全く異なる二つの手法による結果は良い一致を示しており、本研究の手法の有用性が示されつつある。 (2) 構築した並列計算ソルバーによる予備的計算の結果は良好であり、衝撃波が不連続面(サブショック)を含む場合でも計算が破たんすることなく、十分な精度を得たまま、実用的な時間内で計算ができている。 (3) 混合気体に対するET理論の構築は平成29年度以降に計画されていた内容であるが、導出が完了し、論文もすでにアクセプトされている。これにより、混合気体中の非線型波動の解析に計画よりも早く着手できている。 (4) 従来の予想に反するモデルを構築できたことは、研究計画の段階では想像をしていなかった成果である。サブショックの性質をより深く理解するための新たな研究の切り口が見つかったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、順調に研究が進んでいるため、今年度に固めた基礎をもとに大規模な数値計算を実行し、さらに解析を進める。研究を加速させるために、以下の二つの方策を考えている。 (i) 成果が出つつあるので、国内外の学会に積極的に参加し、広く報告するとともに、関連研究者と議論を重ねる。イタリアで開催される国際会議での招待講演が決定しているため、その機会も生かす。 (ii) 非線型波動の解析を行う本研究課題では数値解析が重要な役割を果たす。今年度に構築した並列計算ソルバーを活用して大規模な数値計算を行うため、計算環境の増強もあわせて進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究打ち合わせ旅費について、補助が得られたため。
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次年度使用額の使用計画 |
国内外の学会に当初計画よりも多く申し込み、その旅費にあてる。
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