研究実績の概要 |
(a) 2017年度まではテンソル圏における『随伴代数』および随伴代数を用いて構築されるテンソル圏における積分理論について研究を行っていた. 2018年度は, 柴田大樹氏との共同研究として, これらの理論の準ホップ代数への応用を与えた. 具体的には, (1) 有限次元準ホップ代数 H の表現圏の随伴代数 A が Bulacu, Caenepeel, Panaite の構成した Yetter-Drinfeld 圏におけるある可換代数と同じであることを示した. (2) H がユニモジュラーである場合に A はフロベニウス構造を持つことが知られているが, その構造を H の積分および余積分を用いて明示的に表示した. (3) m を H 上のモジュラー関数とするとき, H の表現圏における m-twisted modified trace を H の余積分などを用いて明示的に表示した. 以上の結果は arXiv:1812.03439 として公開中であり, 学術雑誌に投稿中である.
(b) Fuchs, Schaumann, Schweigert は, 有限テンソル圏 C 上の完全 C-加群 M に対して M の双対セール関手を定義した. これは有限テンソル圏の様々な問題に対して有効であることが知られていたが, C が有限次元ホップ代数の表現圏の場合でさえも具体的な表示は良くわかっていなかった. 2018年度は C が有限次元ホップ代数 H の表現圏, M が H 上の余加群代数の表現圏の場合に M の双対セール関手と関連する同型射を H の積分などを用いて具体的に表示した. さらに, この結果を用いて, M のピボタル構造などについても調べた. 以上の結果は, アメリカ数学会などで発表し, arXiv:1904.00376 として公開中であり, 学術雑誌に投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有限テンソル圏における積分および指標の理論は, 有限テンソル圏およびその上の加群圏に関する一般的な結果を得るために有効であった. 今年度は, これらの理論において中心的な役割を果たす対象(すなわち随伴代数のフロベニウス構造・圏論的積分・圏論的余積分・修正トレース・双対セール関手など)が, いくつかの具体的な場合にどのように表示されるかを決定した. これらの結果は, 今後, これまでに発見されたテンソル圏に対する一般的理論を応用していく上で重要なステップであると考えられる. このような意味で, 研究はおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の(co)endについての研究や, 今年度の修正トレースなどについての研究を通して, 有限テンソル圏において『モノイダル圏的な言葉』で定義されるものと『アーベル圏的な言葉』で定義されるものとの関係性が明らかになりつつある. 次年度は, これまでに得たこのような知見に基づいて, 有限テンソル圏の指標の空間や, モジュラーテンソル圏の指標の空間へのモジュラー群の作用などについて研究していく予定である.
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