研究課題/領域番号 |
16K17583
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
鎌野 健 大阪工業大学, ロボティクス&デザイン工学部, 准教授 (50409611)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多重ゼータ値 |
研究実績の概要 |
通常の多重ゼータ値は反復積分を用いて表されることが知られており,Ong-Eie-Liaw は2つの多重ゼータ値の積の積分区間をうまく分割する手法を用いて,多重ゼータ値の和公式や重み付き和公式を証明した.研究代表者は,28年度にこの手法と有限多重ゼータ値のシャッフル関係式を利用することによって,有限多重ゼータ値間の関係式を得ることに成功した.29年度では本結果を修正し,現在学術雑誌に投稿中である.本関係式は非常に複雑なものであるが,特殊化することにより,ある種の重み付きの和公式とみることができる.有限多重ポリログに関して同様の手法で関係式を得ることは難しく,今後はまず通常の多重ゼータ値に関して積分表示とその変数変換を用いて新たな関係式を得ることが望まれる. また28年度では,ロンサム分解可能な行列の個数を係数に持つ母関数を明示的に与え,それによりロンサム分解可能な行列の個数の法pでの値について詳しく解析した.ロンサム行列の個数は有向サイクルを持たない完全2部グラフの向き付けの個数と対応する.29年度はさらに,ロンサム分解可能行列に関しても同じようなグラフ理論的考察を行った.本結果は学術論文としてDiscrete Mathematicsに掲載された(2018年2月).また第34回代数的組合せ論シンポジウム(2017年6月),関西多重ゼータ研究会(2017年7月)にて報告した.さらに詳細を日本語で記した文章(第34回代数的組合せ論シンポジウム報告集)を発表することにより,国内の研究者に向けて宣伝することができた.今後はロンサム分解可能な行列と多重ゼータ値がどの程度関連付くかが課題となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画書に記載した,有限多重ポリログの関係式を得る手法は以下の3つである.1:積分区間を分割する方法,2:ガンマ関数を用いる方法,3:双対関係式を用いる方法.このうち,1番目の手法については,有限多重ゼータ値の間の関係式を求めることに28年度にすでに成功している.積分区間の分割ではなく,変数変換を用いて通常の多重ゼータ値の関係式を得る方法が知られている.現在では同じ考え方を用いて,多重ゼータ値または有限多重ゼータ値の関係式を得る方法を開発中である. 2番目の手法については,利用したいガンマ関数の解析的結果の調査を行っている段階である.3番目の手法については,インデックスが簡単な場合のみ状況がわかりつつあるが,一般的な規則を見出すには至っていない.そのため2番目,3番目の手法については大きな結果が得られていない状況である.また28年度に定義した,通常の多重ゼータ値と関係のあるロンサム行列の研究も引き続き研究を行なっている.この研究では,ロンサム行列の拡張であるロンサム分解可能行列を定義し,その個数について,部分行列による特徴づけ,母関数表示,素数を法とする合同式,といった通常のロンサム行列の個数と似た性質を証明した.この結果は,ロンサム分解可能行列が素性のよい行列だということを表しているといえる.ロンサム行列は有向サイクルを持たない完全2部グラフの向き付けの個数と対応するが,サイクルの長さの情報とロンサム分解可能行列の関係を考察中である.以上を総合的に判断し,(3)やや遅れている,とした.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究により,多重ゼータ値の積分表示を用いて重み付き和公式などの有限多重ゼータ値の間の関係式を得ることができている.最近,この手法とは異なるが,逐次積分表示の巧みな変数変換を用いて,通常の多重ゼータ値の関係式(大野関係式など)を証明する手法が発見されている.その手法を応用することにより,新たな多重ゼータ値や有限多重ゼータ値の関係式,さらに多重ゼータ値と等号つき多重ゼータ値を補間する多重ゼータ値の関係式,等を得る事を考える.また有限多重ポリログに関しても,この手法を改善して関係式を得ることを目的とする.ガンマ関数を用いる手法も検討を続ける.古典的にはこの手法で高さが1の場合の関係式が導かれ,双対関係式の特殊な場合に相当する.有限多重ポリログに関しては,インデックスが特殊な場合のみ状況がわかりつつあり,一般的な双対関係式とみられる有限多重ポリログの関係式を導きたい.さらにこれらの関係式族が既知の関係式族から導かれるか,といったことも明らかにする.うまく有限多重ポリログの間の関係式が得られない場合,数値計算を援用することにより,関係式の予想を立てながら研究を進める. また平成28,29年度の研究において定義・研究されたロンサム分解可能行列についても,さらに研究を進展させる.ロンサム分解可能行列について,次数が増えていくときの個数のオーダー評価,対称群の部分集合の個数との関係などが研究対象となる.これらを明らかにして,ロンサム行列の理論を整備する.また,完全2部グラフの有向サイクルの長さとの関係を調べることにより,グラフ理論としての解釈も考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
有限多重ポリログの関係式を得る3つの手法のうち,第2,第3の手法については計算が想定通りに進まず,十分な結果を得るところまで届かなかった.そのため予定していた研究集会での報告を延期し,次年度に使用することとした.現在それらの結果をまとめている最中であり,次年度で結果の報告をし,旅費として利用する予定である.
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