研究実績の概要 |
本研究のキーワードは「対称性」である.科学的対象には多くの対称性が潜んでおり,その対称性が対象の振る舞い・性質に大きな影響を及ぼしている.対称性の記述に優れた代数として「カンドル」というものが知られている.他方,空間内の絡まりを表す「結び目」に対しても,それに固有なカンドル,結び目カンドルが定まる.本研究の課題は,カンドルが記述する対称性と結び目カンドルとの関連性を調べ,これによって結び目が備える対称性にまつわる性質を抽出・記述・決定することである.この課題に基づいて,本年度は次のような研究を行った. 1.ファイバー結び目の結び目カンドルからファイバー曲面を復元する方法について:ファイバー性は結び目が備えうる対称性の一種である.研究代表者は,一昨年度,ファイバー性を備えた結び目(ファイバー結び目と呼ぶ)の結び目カンドルが,ファイバー曲面の基本群と自己同相写像が定めるモノドロミーにより完全に記述できることを明らかにした.本年度は,昨年度に引き続き,ファイバー結び目の結び目カンドルから,ホモロジーの理論を活用して,ファイバー曲面を復元する方法について研究を進めた.幾つかの技術的な課題を残すものの,概ね結論には目処がついた. 2.具体的な2次元結び目の結び目カンドルと回転対称性について:2-twist-spun trefoil と呼ばれる2次元結び目の結び目カンドルが,2次元球面のある回転対称性を表すカンドルと同型であることは良く知られている.研究代表者は,3-, 4-, 5-twist-spun trefoil と呼ばれる2次元結び目の結び目カンドルについて研究し,これらの結び目カンドルがそれぞれ正多胞体に関係する4次元球面のある回転対称を表すカンドルと同型であることを示した.この成果は論文にまとめ,現在,学術誌に投稿中である.
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