平成30年度までの研究によって、リーマン多様体とその上の主G束およびG接続の組のなす空間上にグロモフ・ハウスドルフ位相の類似物を定義できることがわかった。また、この位相に関して接続ラプラシアンの固有地の連続性が成り立つことがわかった。令和元年度は、これをケーラー多様体とその上の豊富な直線束の主枠束とチャーン接続の組に対して適用した。このとき、チャーン接続のディーバーラプラシアンは、接続ラプラシアンと定数関数の和となることが知られている。また、ディーバーラプラシアンのゼロ固有値に対応する固有ベクトルは、直線束の正則切断である。研究代表者は、ケーラー多様体のシンプレクティック形式を固定し、それと整合する複素構造を変形した状況における正則切断の挙動を研究した。そのために、まずは問題をリーマン幾何学の言葉に変換した。主枠束にケーラー計量とチャーン接続の情報を反映した自然なリーマン計量を定めることによって、正則切断をこのリーマン計量に関するラプラシアンの固有関数とみなすことができる。リーマン計量を変形した状況における、ラプラシアンの固有値および固有関数の挙動については先行研究の蓄積がある。この研究の蓄積を適用するためには、主枠束上のリーマン計量の列に対する測度付きグロモフ・ハウスドルフ収束を調べる必要がある。 研究代表者は、複素構造の1パラメータ族を、ラグランジュファイブレーションから定まる実偏極に収束するように与え、主枠束上のリーマン計量の挙動を点付き測度付きグロモフ・ハウスドルフ収束のもとで解析した。ここで基点の取り方を、ボーア・ゾンマーフェルトファイバー上にとった場合と、それ以外の場所にとった場合とで、極限として現れる測度距離空間の構造が変わることを証明した。この結果は、シンプレクティック幾何における幾何学的量子化に対する新たな研究の方向性を提示した。
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