研究実績の概要 |
今年度は主に位相的漸化式と完全 WKB 解析の関係についての研究を行った。
藤博之氏 (香川大), 真鍋征秀氏 (Max Planck) および佐竹郁夫氏 (香川大) との共同研究で, 量子コホモロジーが定める Frobenius 構造に付随した微分方程式 (量子微分方程式) と, 位相的漸化式による量子化との関係について研究した。具体的には, 量子コホモロジーの定義関係式をスペクトル曲線の定義方程式と見なし, 位相的漸化式を適用して量子化を行うと, 量子微分方程式が得られることを示した。副産物として, CP1 の同変量子コホモロジーに付随する量子微分方程式の Stokes 構造において, Gaiotto らによる壁越え構造が存在することも示した。これらの結果はプレプリント (arXiv:1708.09365) にまとめ, 現在投稿中である。
また, 小池達也氏 (神戸大)、竹井優美子氏 (神戸大) との共同研究で、近年急速に発展している量子曲線のテクニックを用いた位相的漸化式による WKB 解の構成を援用し、完全 WKB 解析における Voros 係数と位相的漸化式の自由エネルギーの間の明示的な関係式を導くことに成功した。位相的漸化式の自由エネルギーを、あるパラメータの方向に差分を取ることで様々なサイクルに付随した Voros 係数が得られることが分かり, さらにその関係式から自由エネルギーの具体的表示を導くことにも成功した。これらの結果は現在準備中の論文にまとめる予定である。この関係式は、Painleve 方程式のタウ関数の構成において重要な役割を果たすと期待している。
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