研究実績の概要 |
Boutroux によって見出されたように, Painleve 方程式の一般解は楕円函数に漸近することが知られ ている. その楕円函数の引数の中に Painleve 方程式の解の初期条件が含まれており, それを付随する 等モノドロミー線形方程式の Stokes 係数を用いて決定することは Painleve 方程式の解析において重 要な課題である. この問題に関して, 第 I 型 Painleve 方程式の場合には Kitaev が 1990 年頃に重要な 結果を与えている. 昨年度に得られた成果である「位相的漸化式の離散 Fourier 変換としての第 I 型 Painleve 方程式の τ -函 数の構成」の 1 つの応用として, 上述の第 I 型 Painleve 方程式に関する Kitaev の結果を幾つかの仮定を 認めた上で再導出することに成功した.
BPS 構造とは, 2016 年に Bridgeland が Donaldson-Thomas 理論から定まる Riemann-Hilbert 問題の 研究の中で定式化した概念である. 導入された当初から, Bridgeland により BPS 構造は完全 WKB 解析, スペクトル・ネットワークおよび位相的漸化式との関係性が期待されていた. Omar Kidwai 氏 (名古屋大学) との共同研究では, あるクラスの BPS 構造に対し, その期待を裏付ける結果を与えることに成功した. すなわち, 超幾何微分方程式とその合流から得られる微分方程式のスペクトル曲線から定まる BPS 構造について, BPS 構造に付随する Riemann-Hilbert 問題の解と, スペクトル曲線を位相的漸化式により量子化 した Schrodinger 型微分方程式の Voros 係数の関係性を明らかにした.
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