最終年度は、基本的なフラクタル格子であるpre-Sierpinski gasketの上での長距離浸透モデルに対して、ランダムグラフ上のランダムウォークの性質(特に混合時間)と深い関わりを持つ量である、ランダムグラフの等周定数について考察した。ランダムな辺のできる確率がある程度大きい場合に関しては、等周定数の評価は、既に得られていたランダムウォークの混合時間に関する結果の簡単な系である。ランダムな辺のできる確率が小さい場合に関しては、直接的な計算を行うことにより等周定数のオーダーを具体的に特定した。1次元の長距離浸透モデルにおいては、パラメーターの値を変化させたとき、ある臨界値を境にランダムウォークの混合時間のオーダーが不連続に変化することが知られている。一方で、pre-Sierpinski gasket上の長距離浸透モデルの場合に同様の現象が生じるかどうかについてはまだ厳密な形で示されていないが、今回行った考察から、等周定数の性質に関しては、pre-Sierpinski gasketの場合と1次元の場合の間にある程度の共通点が見られる。 研究期間全体としては、pre-Sierpinski carpetの一般化として定義される不規則なグラフ上での長距離浸透モデルに対するランダムグラフの直径の評価や、ツリー上における同様の問題に対する考察、またpre-Sierpinski gasket上での長距離浸透モデルに対するランダムグラフ上のランダムウォークの混合時間及びランダムグラフの等周定数の評価を行い、フラクタル格子上の長距離浸透モデルに関する研究開始時点におけるいくつかの課題や、研究を進めていく中で派生的に現れた課題の解明を進めることができた。
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