(1) 津田谷公利氏(弘前大学)と共同で,昨年度までの研究で残されていたケースである,de Sitter時空における非線形波動方程式に対して,時間大域解の非存在および,解の最大存在時間の上からの評価を与えた.先行研究においては,時間大域解の非存在を示すために指数の制限が課されていたが,本研究ではこの制限を取り除き改良を与えた.また,これまでの研究では解の最大存在時間の上からの評価は全く知られていなかったが,本研究では対応する常微分方程式の観点から妥当と思われる評価を得ることに成功した. (2) 池田正弘氏(理化学研究所・慶應義塾大学),谷口晃一氏(東北大学)と共同で,測度空間上の非線形消散型波動方程式の時間大域解の存在について研究を行なった.まず熱半群に対する自然な仮定のもと,スペクトル分解を用いて抽象的発展方程式の問題設定で線形評価を導出した.これはMatsumura (1976年)による全空間の場合の線形評価を拡張したものである.さらに線形評価とGagliardo-Nirebergの不等式を組み合わせる標準的な議論により,べき乗型の非線形項をもつ非線形消散型波動方程式の初期値問題に対し,小さな初期値に対する時間大域解の一意存在を証明した.この結果の応用として,一般領域でのDirichlet問題,Neumann問題およびRobin問題,変数係数の主要部をもつ2階双曲型方程式,Kato typeのポテンシャル,Diracデルタ型のポテンシャルをもつ場合,フラクタル図形上の消散型波動方程式など幅広い問題に対して時間大域解の存在を示すことができた.
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