研究課題/領域番号 |
16K17626
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 展 京都大学, 数理解析研究所, 講師 (90610072)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 非線形分散型方程式 / 共鳴相互作用 / 平滑化効果 / 初期値問題 / 周期境界条件 / 適切性 / 解の非存在 |
研究実績の概要 |
本研究では非線形分散型方程式における共鳴相互作用と解の性質との関係を調べることを目的としている.これに関連し,2019年度は主として次の成果を得た. 1.2018年度の成果として,3階の分散項を持つ微分型非線形シュレディンガー方程式(3DNLS)のジュブレクラスにおける解の非存在を示していた.ここでジュブレクラスとは無限回微分可能な関数を分類する尺度の一種である.2019年度はこの結果をより一般の方程式に拡張し,特定のジュブレクラスでの時間局所適切性(すなわち解が短い時間は一意に存在して初期値に連続的に依存すること),またそれより広いいかなるジュブレクラスにおいても一般には解が存在しないことを示した.これは3DNLSに対する手法をより複雑な共鳴構造を持った重要な問題へと応用するための第一歩である.また適切性に関しては,ノルム位相を持つジュブレクラスの部分空間では成立しないと考えられるが,自然な帰納極限位相を備えたジュブレクラス全体での成立を厳密に示すことに成功した. 2.微分型非線形シュレディンガー方程式(DNLS)の非線形項に非局所型相互作用を取り入れたもの(KDNLS)は,プラズマの時間発展において波動-粒子間共鳴の影響を考慮したモデルとされているが,数学的研究は通常のDNLSと比較するとほとんどない.2019年度はKDNLSのソボレフ空間における時間局所可解性を,周期境界条件および初期値が十分小さいとする仮定の下で証明し,初期値に対する連続依存性についても部分的な結果を得た(堤氏(京都大学)との共同研究).共鳴相互作用が持つ放物型平滑化効果と非共鳴相互作用に内在する分散型平滑化効果を同時に最大限活用することが証明のポイントである.より重要な問題では共鳴・非共鳴相互作用を単純に分離して考えることが難しいものが多く,そのような状況を扱うための技術を習得することができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形分散型方程式において非線形性の影響により解の可微分性の変化や時間一方向・両方向への解の非存在といった線形分散型方程式の性質とは大きく異なる現象が起こることは数年前から知られていたが,2018年度以降の研究によりそのメカニズムや共鳴相互作用との関係が徐々に明らかになってきた.2019年度の2つの成果は,3DNLSに対して共鳴相互作用が解に特異性を発生させることが示された一方,KDNLSに対しては共鳴相互作用のもたらす放物型平滑化効果により通常は解析が困難な問題にもかかわらず解の構成が可能となっており,共鳴相互作用に起因する2つの対照的な現象を捉えることができた.これらの成果は本研究の開始時には想定していなかった新たな研究の方向性を提起するものであり,今後の発展により今まで関連性が低いと思われていた現象に対しても統一的な理解をもたらす可能性を秘めている.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究を通して,当初取り扱いを予定していなかった幾つかの具体的な問題に対する画期的な成果が得られ,本研究の要である共鳴相互作用の詳細な解析に関しては既に多くの知識や技術を習得することができた.その中で,共鳴相互作用がもたらす楕円型・放物型方程式に似た平滑化や時間不可逆性などの性質について,その発生メカニズムや解の性質に与える影響を調べることが新たな問題として提起されている.これについては,別研究課題(基盤研究(C)20K03678)にて一般的な枠組みでの理論・解析手法の確立を目指すこととする. 本研究課題では,具体的な問題として2019年度の研究実績2.で述べたKDNLSの研究を引き続き行い,特に大きな初期値に対する可解性,解の一意性,初期値に対するリプシッツ連続または一様連続依存性,時間逆方向への解の非存在,非局所項の係数をゼロにする極限での解の収束などの未解決問題に取り組む予定である.また,これらを通して共鳴相互作用の理解をより一層深め,当初予定していた質量臨界非線形シュレディンガー方程式等のより困難な問題への応用の可能性を探っていく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染防止のため,年度末に予定していた国内出張および海外研究者招へいを取りやめたことにより,次年度使用額が生じた.当該研究のための専門図書購入費用や,出張・研究者招へいのための旅費として活用する計画である.
|
備考 |
雑誌『数理科学 2019年10月号 No.676』(サイエンス社,2019年)内の記事『微分方程式における問題設定』(岸本展著)にて,当該研究課題に関する成果の一部を紹介.
|