研究課題/領域番号 |
16K17626
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 展 京都大学, 数理解析研究所, 講師 (90610072)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一般化KdV方程式 / 初期値問題 / 周期境界条件 / 適切性 / 不変測度 |
研究実績の概要 |
本研究では,共鳴型の非線形相互作用がもたらす影響に着目し,非線形分散型方程式の解析を行っている.今年度は,Andreia Chapouto氏(エディンバラ大学)との共同研究により,非線形項を一般化したコルトヴェーグ・ドフリース型方程式(一般化KdV方程式)の周期境界条件下での初期値問題に関する次の成果を得た. 1.非線形項が4次以上の一般の場合の時間局所適切性(時間局所解の存在と一意性,および初期値に対する連続依存性)は,指数1/2のソボレフ空間において示されており,またそれより正則性の低い関数を含むソボレフ空間においては,共鳴相互作用の影響により線形方程式からの摂動として扱うことができなくなることがわかっていた.そこで,ソボレフ空間の変化形であるフーリエ・ルベーグ空間の枠組みで初期値問題を研究し,ソボレフ指数1/2に対応する「臨界」の場合よりも真に広いフーリエ・ルベーグ空間において,線形方程式からの摂動として時間局所適切性を証明することに成功した.証明の鍵となるのは共鳴相互作用の制御であり,これは非線形次数が4次以上になると途端に複雑になる.これまでの研究で培った技術を活かして,精密かつ必要最小限の場合分けを見出し,一つずつ丁寧に解析することでこれを克服した. 2.一般化KdV方程式は無限次元ハミルトン系とみなすことができるが,その構造から自然に定まるギブス測度(不変測度)は,上述の「臨界」より真に広い空間上の測度として捉えないと厳密な意味付けができない.このため,ギブス測度の不変性の厳密な証明とギブス測度に関し殆ど全ての初期値に対する時間大域解の構成については,次数が4次以上の場合には部分的な結果しかなかった.本研究で「臨界」より広い空間での時間局所適切性を得られたことにより,ギブス測度に関連するこれらの性質を一般次数の場合に示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,本研究課題開始時に具体的目標と位置づけていた問題(修正ベンジャミン・オノ方程式のエネルギー空間での解の一意性や質量臨界非線形シュレディンガー方程式の臨界空間での適切性など)に関しては大きな進展はなかったが,2019年度からの国際共同研究が実を結び,一般化KdV方程式の不変測度に関して目標としていた成果を得ることができた.これは,非線形項が2次と3次の場合の1990年代のBourgainによる先駆的研究以来,長年未解決だった問題を解決するものであり,顕著な成果である.今年度の研究を通して複雑な共鳴相互作用の取り扱いにより一層習熟できたことに加え,本研究課題においてこれまで取り組んでいなかった確率論的な解析手法も身に付けることができた.これにより,当初の問題に対しても新しい観点からのアプローチが可能になると期待される.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究対象として当初計画していた,非局所型相互作用を持つ微分型非線形シュレディンガー方程式に関する問題は,「分散型方程式の共鳴相互作用に内在する放物型効果」という観点から別研究課題(基盤研究(C)20K03678)にて続けることとした.本研究課題では放物型効果が支配的にならないと予想される問題を中心に,より複雑で制御が困難な共鳴相互作用を持つ方程式の解析に取り組むことを予定している.特に,前項で挙げたような研究課題開始当初からの目標であるいくつかの問題に対し,これまでに培った実解析的あるいは組合せ論的な手法に加えて,今年度の研究で獲得した確率論的な観点も取り入れつつ挑戦を続ける計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
助成金の大部分を学会参加や研究打ち合わせを目的とする国内・国外出張旅費に充てる計画であったが,コロナ禍における集会の中止・オンライン化や出張自粛要請が年度末まで続いたため助成金を活用することができず,次年度使用額が生じた.今年度に続き,当該研究の深化のために必要となる専門図書の購入費用に充てるほか,研究成果発表や研究交流を目的とする出張・研究者招へいが可能となればそのための旅費として活用する計画である.
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備考 |
1.学術雑誌へ投稿中の論文1編をウェブ上で公開(2020年5月~,https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/preprint/file/RIMS1915.pdf) 2.別の投稿中の論文1編をウェブ上で公開(2021年4月~,https://arxiv.org/abs/2104.07382) 3.応用解析セミナー(京都大学,非公開型,2020年12月)にて研究成果を発表
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