最終年度となる本年度は,研究課題開始当初から取り組むべき問題に挙げていた修正ベンジャミン・オノ方程式(mBO)の解の一意性の解明を目標としていた.エネルギー有限の解の一意性を示す際には (i)制御困難な共鳴構造を持つ非線形項の一部を消去する変換(ゲージ変換)を行った後の非線形項の意味付け (ii)異なる周波数ごとの相互作用の解析を「臨界」のクラスで行うことに起因する非線形評価式の対数的発散,の2点が主な障壁となる.本年度は,類似した非線形構造を持つ微分型非線形シュレディンガー方程式について研究を行った. (i)を克服するための鍵となるのは,方程式の持つ分散性の帰結として示される解の時空ノルム評価式で,これは解の持ち得る特異性がソボレフ埋蔵定理の示唆するものより実際には弱くなることを示している.この評価式と,これまでの研究で培った精密な非線形相互作用の制御技術を組み合わせ,さらに少し狭いクラスでの一意性を示すのに有効であった無限ノーマルフォーム変換を特定の相互作用のみに限定して適用するというアイデアにより,(ii)の問題も解決することに成功した.これは,目標とするmBOの解の一意性解明に向けた本質的な進展である.また,上述の解のノルム評価式と無限ノーマルフォーム変換を組み合わせる方法は他の方程式や一意性以外の問題にも幅広く応用できると期待している. 期間全体を通してタイプの異なる方程式を研究し,初期値問題の可解性や解の一意性などについて広範な成果を得ると同時に,非線形相互作用,特に共鳴相互作用の精密な取り扱いに一層習熟することができた.当初予定していたものの着手できなかった問題もあるが,一方でオイラー方程式の有限モード解の特徴付けや一般化KdV方程式に対する不変測度の構成といった予想外の成果もあり,様々な分野における今後の発展に資するための多くの知見を得られたと考えている.
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