研究課題/領域番号 |
16K17629
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
川上 竜樹 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (20546147)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分数冪拡散方程式 / 高次漸近展開 / 退化拡散方程式 / 特異拡散方程式 / 動的境界条件 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画の一つに挙げていた分数冪拡散方程式の解の高次漸近展開と動的境界条件に付随する退化または特異拡散方程式の非線形問題について研究を行なった。 まず、分数冪拡散方程式の解の高次漸近展開については、これまでの高次漸近展開理論の共同研究者である東北大学(現東京大学)石毛和弘氏と広島大学の道久寛載氏と共同研究を行い、既存の研究によって問題点として挙げられていた積分方程式の核、すなわち基本解の可積分性の空間減衰に起因する問題点を明確にし、基本解による可積分性の損失が有限次元空間であること、また、それを除いた空間における初期値のモーメントの次数に応じた高次漸近展開理論を構築した。これにより、これまで基本解の性質から高次漸近展開が困難であった様々な問題、特に半空間における動的境界条件付きの非線形楕円型方程式の時間大域挙動に対して1つの新しい視点を提出できたと強く確信している。本研究成果は既に論文として国際雑誌に投稿し、掲載されている。 次に退化または特異拡散方程式の非線形問題については、静岡大学の藤嶋陽平氏とJohns Hopkins大学のYannick Sire氏と共同で研究を行った。ここでは動的境界条件に付随する分数冪拡散方程式から導かれる重み付きの拡散方程式について、冪乗型非線形項を有する場合に解の時間大域可解性を分けるいわゆるFujita指数を導出した。これは本問題の解の挙動を考察するにあたり、最も基本的な結果の一つと言える。本研究成果については既に論文として国際雑誌に投稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は研究計画の一つとして挙げていた分数冪拡散方程式の解の高次漸近展開理論を構築できたこと、また、当初の研究計画としては想定していなかった退化または特異拡散方程式の非線形問題について国際共同研究が行えた点から見ても、当初の計画以上に進展していると言える。 一方で、昨年の実施状況報告書で挙げていた指数型非線形項を内部に持つ動的境界条件付き非線形楕円型方程式の可解性についてはMilano大学へ訪問し、研究連絡を行ったものの、研究成果としてはまとまっておらず、今後の進展が期待される。また、Half Laplacianを有する粘性Hamilton-Jacobi方程式に対応する積分方程式の解の解析性についても一定の研究成果は得られているものの、より汎用性のある結果への改良を試みて、現在も継続して研究を進めており、次年度以降の発表を目指している。 以上の点から、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、昨年度からの継続研究として指数型非線形項を内部に持つ動的境界条件付き非線形楕円型方程式の可解性について考察したい。その過程において、指数型非線形項を有する非線形境界条件付き熱方程式の可解性との対比が重要であることがすでにわかっており、本問題に対してMilano大学のRuf氏、Terraneo氏、Bergamo大学のFurioli氏と共同研究を行っていくことになっている。また、Half Laplacianを有する粘性Hamilton-Jacobi方程式に対応する積分方程式の解の解析性については本年度と同様に東北大学の岩渕司氏と共同で継続的に研究を行っていく。 次に次年度からの取り組みとして、動的境界条件付き線形熱方程式の解の構築を試みる。またこれにより構築された解の拡散極限が動的境界条件付きLaplace方程式の解に適当な意味で収束しているかについて検証していく。これは動的境界条件に対する解釈の正当化を試みるものであり、これまでの研究の継続研究と言えるため、Comenius大学のMarek Fila氏と石毛氏と共に研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は年度末に計算機の購入を検討していたが、共同研究に関して進展があり、共同研究者と研究連絡を行う必要が生じたため、研究の進展を優先し、旅費による使用を行なった。そのため、計算機購入予定額との差額が生じた。 次年度の使用計画としては計算機の購入を再検討するが、既に次年度前半に3件の海外出張が決定していること、また7月に台湾で開催される国際研究集会の Session organizer になっており海外から研究者を招聘予定であること、さらに研究の進展によっては研究打ち合わせの回数を計画以上に増加する可能性も視野に入れつつ、計算機自身または周辺機器の購入について検討して行く。
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