研究実績の概要 |
今年度は, 以下の事項についての研究の遂行, および研究成果の公表に関する作業を行い, 本研究課題の総まとめとした. (1) 昨年度から進めている量子ウォークに対する時間定常的なスペクトル散乱理論に関する研究を進めた. 今年度は, 1次元2状態量子ウォークモデルに対する, 連続スペクトル内部の埋蔵固有値に関する結果を論文の形で公表し, その応用として, 連続スペクトルによるある種の欠損の検出方法も提案した. 特に, 埋蔵固有値の存在と非存在は, 量子ウォークを規定する量子コインの形で決まり, 各点での反射と透過によって特徴づけ可能なことを明らかにした. 量子コインの完全反射をうまく与えれば, 任意の場所に固有値を作れることも簡単に示した. この結果は論文として公表した. また, 組み合わせ論的な方法により量子ウォークに付随する散乱行列を構成することができることを示した. これについては, 共鳴トンネル効果など, 具体的な散乱理論上の現象の解析に応用すべく, 次の研究課題に向けてさらなる考察を進めているが, その足掛かりとなる重要な考察となった. (2) 時間定常的な音響波動方程式の散乱理論における非散乱エネルギーの研究成果について, 論文として公表するための最終的な作業を行った. 主要な結果と証明は昨年度までに概ね得られていたが, 今年度は若干の修正や精密化を行い, 国際会議を含む研究集会で発表するとともに, 論文として公表することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で当初から主要な目標としていた非散乱エネルギーに関して, 概ね満足のいく形での成果発表まで到達できた. また, 同時に研究対象としては離散シュレーディンガー作用素のスペクトル散乱理論の副産物として, 量子ウォークに対するスペクトル散乱理論に展開できたことは, 本研究課題の成果であり, 今後の研究の展開について大きな足掛かりを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
量子ウォークについては, 本研究計画で得られた結果や知見をより広いクラスの量子ウォークモデルへ展開し, スペクトル・散乱理論についての共同研究を進める計画である. 非散乱エネルギーの研究については, 本研究計画で得られた結果は概ね満足いくものではあるが, 現時点では時間定常的な音響波動方程式の, ある特定の条件を与えた状況で通用するものである.物理的および数学的に自然な設定でどのようになっているか不明なものが多く残っており, 特にシュレーディンガー作用素の場合が重要である. 今後は, 本研究計画で扱うことができなかった場合についての研究に進む予定である.
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