研究課題/領域番号 |
16K17636
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研究機関 | 苫小牧工業高等専門学校 |
研究代表者 |
熊崎 耕太 苫小牧工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (30634563)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中性化現象 / 水分の輸送モデル / 準線形放物型方程式 / 自由境界問題 / 解の存在と一意性 |
研究実績の概要 |
本研究は、 建造物の持続性を損なう亀裂を引き起こす原因である中性化現象について、水分や二酸化炭素といった化学物質を用いた3次元数理モデルの適切性を示すことを目的としている。 本年度は、中性化現象の原因である水分に関する輸送モデルの解析を行った。水分の輸送モデルは, 相対湿度に関する準線形放物型方程式であり、相対湿度と飽和度の関係がヒステリシスとなるという実験結果と間隙率(中性化過程における細孔の変化を表す)を取り入れている。本年度に得られた結果は、次の通りである。 従来、相対湿度と飽和度とのヒステリシスの関係は、相対湿度を入力、飽和度を出力とする微分包含によって表されていたが、相対湿度に対する飽和度の連続依存性が十分ではなく、間隙率を含んだ場合や、二酸化炭素の輸送モデルを加えた中性化現象全体を表すモデルの適切性を示すことが困難であることがわかった。一方で、長岡高専の佐藤氏、日本女子大学の愛木氏らが、多孔質媒体内の1つの細孔における相対湿度と飽和度との関係を1次元の自由境界問題として記述し、相対湿度と飽和度との十分な連続依存性だけでなく、数値計算により、その関係がヒステリシスのような振る舞いをすることを示した。そこで、この手法を導入し、多孔質媒体(巨視的領域)の各点に微視的領域における自由境界問題が付随していると考えることで、新しい水分の輸送モデルを導出した。 この新しい輸送モデルの適切性を考察するため、まず、飽和度を表す自由境界問題に対して、相対湿度を予想される正則性を持った関数として与え、時間大域的な解の存在と一意性を示した。また、相対湿度の持つ解の高い正則性をうまく利用し、飽和度の巨視的領域の空間変数に対する可則性と与えられた相対湿度に対する飽和度の連続依存性を証明した。この結果を用いて、水分の輸送モデルに対する時間局所解の存在と一意性を示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、中性化現象を表す3次元数理モデルにおいて、細孔の変化を間隙率によって表し、それらを取り入れた水分の輸送モデルの解析をすることが当初の目標であった。 間隙率を取り入れた水分の輸送単独の解析では、解の存在や一意性を得ることができたが、相対湿度と飽和度とのヒステリシスの関係による弱い連続依存性のため、二酸化炭素の輸送モデルを組み合わせたときに中性化現象全体を表す数理モデルの適切性を示すことが困難であることがわかった。そこで、多孔質媒体の1つの細孔における相対湿度と飽和度との関係を自由境界問題として記述する方法を採用し、多孔質媒体の各点に付随した微視的領域における相対湿度と飽和度との自由境界問題を考えることで、本来の水分の輸送モデルの見直しを図った。今回の巨視的領域と微視的領域に分けてモデルを考えるという手法は、中性化現象だけでなく、様々な自然現象・物理現象を考察する上での新しい枠組みであり、計画当初では予想できなかった展開である。 この新しい水分の輸送モデルでは、間隙率は無視しているものの、微視的領域における飽和度の巨視的領域の空間変数に対する可則性と相対湿度に対する連続依存性を用いて、時間局所解の存在と一意性を示すことができた。この新しいモデルにおいては、相対湿度と飽和度との十分な連続依存性を得ることができるため、二酸化炭素の輸送モデルを組み合わせた中性化現象を表す数理モデルの適切性が証明できると予想される。 以上のことから、当初の計画である間隙率を考慮した場合の水分輸送モデルの解析を行うという目標は達成しており、順調に進展している。次年度以降、本研究の目的である中性化現象を表す数理モデルの適切性を示すため、この新しい水分の輸送モデルと二酸化炭素の輸送モデルを考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、上述の達成度評価に基づき、当該年度に予定している中性化現象における二酸化炭素の輸送モデルの解析に加えて、巨視的領域と微視的領域を組み合わせた新しい水分の輸送モデルの解析を追加する。これに伴い、以下のように活動計画を再設定する。 前半期では、新しい水分の輸送モデルの時間大域解の解析を行うところから着手するが、一旦間隙率を無視した場合を考える。これまでの解析で、時間局所解の存在は示されているが、解を時間大域的に延長するためには、解そのものが小さくなければならないことがすでにわかっている。そのために、初期値と境界値を小さくすることと相対湿度に対する方程式を改良することも現段階で判明している。具体的な改良策としては、関数の切断(トランケーション)など方程式の意味を大きく変更しないような設定を行い、解そのものが小さいことを示す。 その後、新しい水分の輸送モデルにおいて、相対湿度に関する準線形放物型方程式に対して間隙率を考慮した場合を考える。解析が順調な場合は、早い段階でめどをつけ、後半期の内容へ移行する。解析が難航した場合は、間隙率を滑らかな関数で近似した場合の問題を考え、極限問題として本問題を捉え直した上で、解の存在と一意性に関する解析を行う。 後半期では、研究計画の当該年度に予定している、中性化現象における二酸化炭素の輸送モデルに対して、実際の状況を再現できるような境界条件を仮定した場合の解の存在と一意性の考察を与える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、研究成果発表用にノートパソコン(Panasonic Let's note 224千円)を購入する予定であったが、研究協力者であるスウェーデン・カールスタッド大学のAdrian Muntean氏との研究打ち合わせを行うため、9月に1週間ほどスウェーデンに滞在し、それに係る旅費を支出した。そのため、新しいノートパソコンを購入すると、平成28年度後期に予定している研究集会等への参加がを難しくなることから、新しいノートパソコンを購入することを断念したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度請求額と合わせ、ノートパソコンの購入及び国内外の研究協力者との打ち合わせの費用に充てる予定である。
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