本研究は、建造物の持続性を損なう中性化現象について、内部の水分や二酸化炭素といった化学物質の輸送モデルから成る3次元数理モデルの適切性を示すことを目的としている。 本年度は、水分の輸送モデルと二酸化炭素の輸送モデルを組み合わせた数理モデルの解の存在を示すことが目的であった。水分の輸送モデルは、材料全体で観測される相対湿度の拡散方程式と、内部の細孔における水分の吸着現象を表す自由境界問題から成り、二酸化炭素の輸送モデルは水中と空気中の二酸化炭素濃度を未知関数とする2つの拡散方程式から成る。本年度得られた結果は以下である。 1. 数理モデルの解の存在を示すためには、二酸化炭素の輸送モデルの解と自由境界問題の解の正則性が問題であった。昨年度、二酸化炭素の輸送モデルの解に対しては、時間微分の空間方向の評価など必要な正則性を導出した。自由境界問題の解については、十分と思われる正則性を導出していたが、進めていく上で、正則性が足りないことがわかった。そのため、初期値と境界値の条件を見直し、巨視的変数に対する微分可能性とその最大値評価を導出した。もともと、自由境界問題の解は微視的数量であるが、巨視的変数に対して微分できることとその評価は、自由境界問題に対する新しい観点であると考えられる。 2. 水分の輸送モデルと二酸化炭素の輸送モデルを連立させた数理モデルに対して、水分の輸送モデルにおける相対湿度の方程式の外力項に滑らかな近似を施した上で、上記の二酸化炭素の輸送モデルの解と自由境界問題の解の正則性を用いて、時間局所解を構成した。近似を施しているため本来の問題でなく、また時間大域解まで構成できなかったが、こうした巨視的領域における偏微分方程式と微視的領域における自由境界問題の連立系に対する重要な結果を得ることができたと考えている。
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