研究課題/領域番号 |
16K17637
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀬川 悦生 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (30634547)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子ウォーク / 単体的複体 / 組み合わせ的フロー / 結晶格子 |
研究実績の概要 |
単体的複体上の量子ウォークを新たに導入し、与えられた単体複体から誘導されるあるグラフ上の量子ウォークとユニタリ同値になることを示した。具体例として、n次元球面上の量子探索を行い、所謂古典アルゴリズムに比べ、グラフ上のとき同様、二乗のオーダーで探索が成功することを証明した。 グラフの縁に対する量子ウォークの感受性について、トポロジカル相と関係する二次元格子をx=0で切断した時の量子ウォークモデルを用いて検証した。するとエッジ状態を表すスペクトルが、量子ウォークのグラフの切れ目周辺の挙動に及ぼす影響を完全に分類することができた。 Grover walkの局在化とグラフの幾何との対応を導出した。特に、グラフの有限な組合わせ的フローが存在することと、量子ウォークのランダムウォークからは遺伝しない発生の固有空間が存在することの同値性を示した。また線形的拡がり関しては、結晶格子上のGrover walkの極限分布について議論し、十分に時間が経過したときの、量子ウォーカーのスケーリングされた位置を、波数でパラメータ表示させる公式を導いた。 その一方で、量子力学と量子ウォークとの対応についても議論した。その一例として、実軸上の二重ポテンシャルの、シュレディンガー方程式に従う平面波の透過性とこのダイナミクスを模倣する量子ウォークモデルを与えることによって考察した。特に、ある条件下ではこの量子ウォークの定常状態と、このシュレディンガー方程式の定常解が同値になることを証明した。 これまで多くの提案されてきた量子ウォークモデルの構成方法の俯瞰的な描像について議論した。特にグラフの幾つかの変形操作を介することで、様々な量子ウォークモデルのユニタリ同値性の証明をした。このことによって、これまでの量子ウォークに関する結果の関係性を効率的に議論、新たな量子ウォーク模型の提案を容易にすることが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前の単体的複体上の量子ウォークにおいては、ヒルベルト空間の次元が単体的複体の次元が大きくなると、急速に増大する欠点があった。それを改善するため、新たな単体的複体の構成法の提案に成功した。それによって、量子探索などの数値計算に頼らない解析的な結果を導出することが可能になり、解析な基礎を構築した。ここで行われた手法により一般的な単体的複体上の量子ウォークによる量子探索アルゴリズムの解析にも応用の可能性が高く、より一般的な議論の展開が期待できる。また、グラフの縁に対する量子ウォークの解析では、単位円周上の直交多項式の伝統的な固有値解析の手法を応用しており、この手法が、今後の量子ウォークを通したトポロジカル相の理解をより深く追求するのに役立つことが期待できる。 また、組み合わせ的フローの存在と発生の固有空間の存在の同値性が示されたことによって、グローヴァーウォークの挙動からグラフの幾何が抽出できた成功例になった。この解析方法はグローヴァーウォーク以外に対しても拡張可能で、別の幾何が抽出できることが期待される。波数を動かしたときに、多く通る場所ほど、高確率でその場所にいやすい。一方で、スケーリングされた結晶格子の量子ウォーカーの位置の波数パラメータ表示を与える公式から、極限分布をみることによって、結晶格子のどのような幾何構造を線形的な拡がりから抽出されてうるかを解決する手がかりとなることが期待される。 量子力学と量子ウォークとの対応についても議論に関しては、シュレディンガー方程式との親和性を示唆した結果になった。メトリックグラフ上のシュレディンガー方程式系を与える所謂量子グラフとの対応関係について、より一般的なグラフに議論を展開し、低定常状態への収束条件とグラフの幾何構造との関係性などの議論が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
単体的複体上の量子ウォークに関しては、未だ幾つかの具体例による状況証拠的な累積に過ぎない状況であるが、今後は何かしらの位相的な描像を量子ウォークから抽出できるよなモデルの提案と、結果の蓄積を行う。同時に網羅的な議論が展開できるよう、去年度にもまして、位相的グラフ理論の専門家のアドバイスを仰ぎ、協力体制を強化する。また、二重ポテンシャル付きの一次元平面波の散乱とグラフ上の量子ウォークの結果に対して、高次元化された単体的複体的量子ウォークにおいては対応するシュレディンガー方程式が構成されるのか、もしあればどのように変形されていくのかも行い研究を推進させる。 グローヴァーウォークの局在化とグラフの幾何が結びついたが、グローヴァーウォークは量子ウォークの特殊なモデルに過ぎない。そこでより広いクラスの量子ウォークを考えそのスペクトル写像定理を与える。そのときに現れる局在化の要因とグラフの幾何との関係を通じて、量子ウォークの分類を行う。また、線形的拡がりについては、引き続き結晶格子の場合で考察を続ける。スケーリングされた結晶格子上の量子ウォーカーの位置を波数パラメータ表示することで、波数を動かしたときに、量子ウォーカーが多く通る場所ほど、高確率でその場所にいやすい。したがってその密度がまさに極限密度関数そのものになっている。典型的な結晶格子である三角格子、六角格子、カゴメ格子の極限分布のサポートが傾いた楕円で記述されることを導出したが、この傾きは、結晶格子の埋め込みの実現を反映するものである。そこでグラフの幾何の抽出を行うにはその中身について考察する必要がある。数値計算によると、三角格子においては、この楕円中に描かれるある双曲三角形周辺に高確率で存在することが示唆されている。この興味深い現象の裏側に潜むある種の幾何的な描像を今後詳細に検証していく。
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