(1) 量子ウォークの位相とグラフゼータの関係 量子ウォークはユニタリ作用素による離散的な時間発展が線形的に繰り返される。確率分布を見るときには、各頂点におけるノルムの二乗をとるという、非線形操作が加わる。このノルムの二乗の操作で、複素の偏角の情報は失われる。量子ウォークによるグラフの同型判別問題においては、この位相の情報が重要になることを明らかにした。量子ウォークのn乗で誘導されるゼータ関数を定め、その構造定理がIhara型の表示で表せるようなグラフのクラスを与えた。量子ウォークの位相が作る模様の解明という新たな研究の方向性を見出した。 (2) 量子ウォークの時間発展のユニタリ同値性 主に研究者の専門分野に応じて3種類の量子ウォークモデルをそれぞれ独立に研究し、包含関係などについても議論が繰り広げられてきた。一つはコイン付き量子ウォークと呼ばれ、波の透過や反射のダイナミクスとして理解しやすく、量子グラフとの関連性もみることができる。二つ目は二部ウォークと呼ばれるもので、量子探索アルゴリズムの中で駆動する。そして三つめはスタッガードウォークと呼ばれ、グラフの2種類のクリークカバーから構成され、グラフ理論との深い結びつきがある。そこで我々は幾つかのグラフの変形の概念を導入し、これらの同値性を数学的に明らかにし、量子ウォークを媒介にした異分野交流の土壌を構築した。 (3) 吸収壁つき量子ウォークの極限分布 一次元格子上の量子ウォークにおいて、原点に吸収壁を一つ置き、そこに到達したウォーカーは吸収されてしまう。このときに、吸収されない(=一度も原点に行かない)条件の下、時刻nで場所xに存在する量子ウォークで言うところの条件付き確率に関する、極限定理を導出した。このパスの数え上げによる母関数の手法から導き出された密度関数に現れる有理多項式は、この吸収壁の寄与を表していることを明らかにした。
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