研究実績の概要 |
2019年度のこの研究課題に関する結果としては Ippei Obayashi, Michio Yoshiwaki. Field choice problem in persistent homology, https://arxiv.org/abs/1911.11350 が挙げられる.この結果はパーシステントホモロジーにおける「係数体の選択問題」に関係するものである.パーシステントホモロジーはデータの形の情報を「ホモロジー」という数学の道具を使って抽出するツールである.この計算の前にあらかじめ決めておくパラメータとして「係数体」がある.この結果ではこの係数体の取り方がパーシステントホモロジーの計算結果に与える影響について解析した.特に影響を「与えない」条件を与え,それを効率的に計算機上で判定するアルゴリズムを提唱した.またこのアルゴリズムを実装し,ランダムな入力データに対して適用することでどの程度の頻度でこの係数体の取り方が計算結果に影響するか計算機実験を行った.実験結果としてはデータの空間の次元が重要で,3次元データは影響を与える確率が非常に低く,高次元データは高いという結果を得た.これは数学的な直感にも合う(高次元のほうが複雑な構造を作り出しやすい)結果である.一方実用的には3次元データを扱う機会も多くその場合は問題があまり起きないことをこの結果は示唆している.数学的には完全系列やスミス標準形といった標準的な数学的手法を用いている. この結果はパーシステントホモロジーの計算に関する実用上の問題を標準的な数学的手法で解決し,実際に使えるアルゴリズムを実装し,数値実験をする所までやったのが評価すべき点である. その他,パーシステントホモロジーの概要と材料科学への応用に関する解説論文の執筆なども行った.
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