研究課題/領域番号 |
16K17639
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
保國 惠一 筑波大学, システム情報系, 助教 (90765934)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 数値線形代数 / 固有値問題 / 数値計算アルゴリズム / 疎行列 / 最適化 |
研究実績の概要 |
工学、社会科学、産業における実際的な問題は、現象が複雑であるために不完全なモデルで済ませたり、データに誤差・欠損が含まれたりする。このような問題から所望の解を積極的な意図をもって選別・抽出できるようにするため、既知の物理制約や未知数の先見情報を適切に活用する方法を考案したい。そこで、数理的裏付けのある知識獲得を可能にするような固有値計算技術を構築する。固有値問題における固有ベクトルに既知の情報や知識を制約条件として課したような制約付固有値問題の無制約化を行い、その求解のための頑健で効率的な数値計算アルゴリズムを開発する。 (1) [制約付固有値問題を等価で無制約なものへ変換するような定式化] 本問題を、一般化レイリー商が目的関数、制約条件が固有ベクトル課された最適化問題であると解釈し、等価で無制約な固有値問題に帰着させる方法を明らかにした。さらに、元の問題における行列の疎性を継承して帰着問題を生かして効率良く計算できるような方法を明らかにした。 (2) [無制約化した固有値問題に対する効率的な数値計算アルゴリズムの開発] 部分固有値問題の求解における計算時間のボトルネックは線形方程式の求解にある。行列の疎性を生かして効率的に解けるようにするため、研究代表者がこれまで研究してきた前処理技術を適用できるようなアルゴリズム設計を行った。 (3) [制約付固有対(固有値及び固有ベクトル)の性質に関する理論解析] 人工的に作成した単純なテスト問題に対して、固有ベクトルに先見情報や事前知識に基づく制約を課すことでそれを反映した所望の解が得られることを計算機実験で確認した。しかしながら、固有ベクトルに与える先見情報を適切な指標で定義して、理論的及び実験的に元の問題と比較することを実施するまでには至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、固有ベクトルに対して先見情報や事前知識に基づく制約条件を課した大規模疎な制約付き固有値問題に対して頑健で効率的な数値解法を考案することを目的としている。今年度は行列の固有ベクトルに制約を課した制約付き固有値問題を効率的に求解できるような問題の定式化および数値計算アルゴリズムを開発した。具体的には以下の点について取り組み、おおむね順調に研究が進展している。 (1)当初は、制約付固有値問題を等価で無制約な問題に帰着させることを計画していた。実際そのような問題に帰着するような変換方法、及び元の問題の疎性を活用して効率よく求解できるような定式化を明らかにした。 (2)当初は、(1)で得られた無制約化した固有値問題に対する効率的な数値計算アルゴリズムの開発を行う計画であった。広範なクラスの固有値問題に対して適用することができる周回積分型解法 (SS法) を効率良く適用するような数値計算アルゴリズムを設計することができた。積分点ごとにおける線形方程式を効率的に求解できるようにするための基礎となるような前処理技術についての成果が得られたため、学術論文誌に投稿した。 (3)当初は、制約付固有対の性質に関する理論解析を行う計画であった。そのための準備として人工的に生成した単純なテスト問題に対して数値実験を行い、先見情報や事前知識を反映した所望の解が得られることを確認した。しかしながら、先見情報の大きさを適切に定義し、解の妥当性という観点から元の問題と制約付問題の固有対との差異に適当な関係を与えるまでには至らなかった。本課題は次年度に持ち越す。 そのほか部分的、派生的な成果については学会及び研究会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、固有ベクトルに対して制約条件を課した大規模疎な制約付き固有値問題を頑健で効率的に解くための手法を考案することを目的としている。今年度の研究により本問題を効率良く解くための定式化およびアルゴリズムの設計の目処はたったため、当初の計画に則って次年度は実験評価・理論解析を推進し、提案法と従来法の性質・性能の差異を明らかにする。今年度計画通りに研究が十分に推進できなかった(3)制約付固有対の性質に関する理論解析は次年度に重点をおいて継続して実施する予定である。より具体的には以下の計画で研究を進める. (4) (2)の提案法及び従来法の性能を(5)で比較するための計算機実装を行う。 (5) ベンチマーク問題に対して(4)の実装の計算時間、精度等を計測してその結果を評価検討する。提案法の性能が従来法よりも劣る場合には、アルゴリズムの効率性を考慮した問題の定式化(1)を行う。 (6) 提案法の求解性能の理論解析を行う。誤差に対する提案法の安定性を解明するために摂動解析を行う。所望の精度で制約付固有対を与えるために必要な積分点数や積分則による精度の違いを理論的に示す。理論解析を効率的に進めるために、(4)の実装を使って数値実験を援用する。
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