研究課題/領域番号 |
16K17641
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡村 和弥 名古屋大学, 情報学研究科, 特任助教 (90725178)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子測定理論 / Heisenberg描像 / C^*-代数 / セクター / 測定過程 / 測定スキーム |
研究実績の概要 |
本研究課題2年目は量子測定理論の枠組みを拡張する研究が進展した。 量子測定理論の研究は定性的なものから定量的なものまであり,量子情報技術での実装や実証研究においては具体的な対象を扱うため,後者すなわち定量的な解析が中心となって研究されている。一方で,理論的枠組みの適用範囲に関わる研究においては抽象的で定性的な議論が物理を記述する言語を提供するうえで欠かせないものとなる。今年度は量子測定理論の適用領域を広げる上で重要な「測定により対象系が変化する状況の取り込み」および「C^*-代数での測定理論の枠組み整備」をすることができた。 「測定により対象系が変化する状況の取り込み」については「ドレスト光子」と呼ばれる対象を目標にした解析を行った。測定行為自体が系の動力学や境界条件に常時多大な影響を与える状況はこれまで量子測定理論では明確な意識はされてこなかった経緯がある。そのような状況での測定理論の枠組みの(完全ではないが一定の範囲で)定式化に成功した。 一方の「C^*-代数での量子測定理論の枠組み整備」であるが,これまではC^*-代数の部分クラスであるvon Neumann代数での研究が中心で,研究代表者もvon Neumann代数での量子測定理論の枠組み整備で貢献してきた。けれどもC^*-代数においては明確に物理的根拠のある一般的定式化はされていなかった。代数的量子論においては,小嶋泉氏により導入された「セクター」を考慮する必要がある。今回,確率論的に意味のある「σ有限な」表現(と対応する双対空間の中心部分空間)を利用してC^*-代数におけるSchroedinger描像およびHeisenberg描像での測定理論の定式化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は本研究課題に設定しなかった方向において大きく研究が進歩した。今回得られた成果は本来,より将来的に取り組むべき問題の解決であり,その意味では当初の計画以上に進展している。 ドレスト光子を対象に,測定により対象系が変化する状況での測定を定式化した。量子系では測定により対象が乱される事実はよく知られているが,測定装置を用意した時点で系の動力学や境界条件に多大な影響を与える状況はこれまで明確な意識はされてこなかったため,そのような状況の存在を明確にしたことに大きな意義がある。数理モデル構築を吟味しつつ,論文の執筆準備中である。 C^*-代数での量子測定理論の枠組みを,セクターの考慮をしてSchroedinger描像・Heisenberg描像の双方において定式化した。「測定スキーム(measuring scheme)」の概念を導入し,量子確率過程論およびC^*-代数の表現論に基づいてHeisenberg描像での測定による系の変化を記述可能にした。C^*-代数に定義を拡張した測定相関の系の表現定理により測定スキームが再構成できることも証明した。 当初の研究計画では今年度は逐次測定および連続時間測定の研究であった。予定から外れてしまっているためこちらの研究については遅れている。逐次測定を測定相関の系の観点から扱うアプローチにより現在研究を進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
C^*-代数での量子測定理論の定式化が今年度の成果であり,量子統計力学や代数的場の量子論の導入が可能になった点が大変大きい意義を持つ。そのため,今年度は当初の研究計画からはずれてしまってはいるが,今後はその成果の応用を画策する。 当初の計画である逐次測定と連続時間測定の研究をC^*-代数に基づく量子確率過程との観点からHeisenberg描像での記述を深めていく。確率微分方程式論の応用や,Levy過程や非Fock状態での熱平衡状態などを利用した測定についても考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2年目に次年度使用額が生じた影響で再び次年度使用額が生じている。次年度使用額は主に旅費として使用する計画である。
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