本研究課題は単調欠測データに基づく仮説検定法に焦点を当て,検定統計量の漸近分布をより高次のオーダーまで評価し,その結果を基にして比較的小標本の状況下でも実用に耐え得る新たな仮説検定方式の提案,検出力の評価等につなげるものである.特に,今年度は当初の予定よりも仮定をさらに緩め,より一般的な条件下で研究成果の導出に成功している. 1.多次元正規母集団から得られた2-step単調欠測データ(欠測パターン数2の単調欠測データ)を仮定し,平均ベクトルに関する仮説検定における尤度比検定統計量に対し,ある局所対立仮説の下で検出力関数をより高次のオーダーまで導出した.前年度に得た結果と比較することにより,多くのケースで尤度比検定統計量の漸近検出力がT2乗型検定統計量の漸近検出力よりも高いという結果を得ており,大規模なモンテカルロ・シミュレーションによる検証結果との整合性も確認している. 2.多次元楕円母集団から得られた2-step単調欠測データを仮定し,多変量正規母集団の下で得られている平均ベクトルに対するT2乗型検定における非正規性の影響について考察を行った.前年度は欠測データメカニズムがMCARの仮定の下での結果を得ているが,本年度は各欠測パターンで標本ベクトルの観測部分の周辺分布が異なる下で,検定統計量の漸近帰無分布をより高次のオーダーまで求めることに成功した.この結果から,尖度パラメータが正の場合,Cornish-Fisher展開によって得られる漸近的な検定統計量の上側パーセント点が多変量正規母集団の場合よりも小さい値をとるという結果を得ており,大規模なモンテカルロ・シミュレーションによる結果との整合性も確認している. 1については,海外専門誌への掲載が確定している.2の結果の一部については,2018年度統計関連学会連合大会にて口頭発表を行っており,現在専門誌への投稿準備中である.
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