研究課題/領域番号 |
16K17649
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
宮路 智行 明治大学, 研究・知財戦略機構, 特任講師 (20613342)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 力学系の分岐 / 反応拡散系 / ビリヤード問題 / 進行スポット / 縮約方程式 / 非線形・非平衡系 |
研究実績の概要 |
有界領域に閉じ込められた自己駆動粒子の運動を,運動が生じる分岐点近傍での分岐の標準形に対する分岐解析を通じて理解することを目的とする.このような運動は,典型的には平面上の反応拡散方程式系の進行スポット解に見られる一方,流体力学や非線形光学分野においても近年報告されてきており,本研究を通じて普遍的な数学的構造を見いだしたい. 平成28年度は多角形領域における非平衡ビリヤード球の運動の研究を行った.矩形領域において運動の漸近速度やアスペクト比をパラメータとして変動させると,アトラクタが周期軌道・非周期軌道へと間欠的に変化する分岐現象が長辺方向への振動解のトーラス分岐に伴うアーノルドの舌と位相ロッキング現象に起因することを突き止め,Physica D誌に発表した.また,非平衡ビリヤード球の境界との相互作用項に含まれるパラメータを変動させることによって,正方形領域での運動で準周期的軌道と周期軌道が同一パラメータで共存しうることを見いだした. また,三角形領域における運動方程式の研究を行った.この場合は矩形領域よりも解構造が複雑であり,複数のアトラクタ・リペラが同一パラメータで多数共存するようである.その理解には力学系全構造解析手法を精密に適用する必要があり,その全容の解明には至っていない. 五角形以上の場合,内角が鈍角となる.この場合,領域の境界と対称な位置に仮想粒子を置くという手法による常微分方程式モデルの構築の妥当性に疑問が残る.そこで,まずは離散力学系モデルによる考察を試みた.そのために,正方形領域と円板領域における離散力学系モデルの漸近挙動について理論的に考察した.特に,矩形領域における常微分方程式モデルと離散力学系モデルの比較を行った.その考察については,平成29年度に継続する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では多角形領域における分岐解析を行う予定であったが,モデル方程式の導出に困難があった.しかしながら,三角形・四角形領域における解析や離散力学系モデルの解析を通じた進展があったため,深刻な遅れではなく,やや遅れていると言える.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は,多角形領域および円板領域における自己駆動粒子の運動の理解を目標とする.これまでの研究から,領域形状が円板に近づくにつれて粒子の挙動が単純になっていくことが予想できる一方,三角形領域における粒子の運動では力学系の不変集合の構造が非常に複雑であることが予想される.本研究では,力学系の分岐の立場から,数値分岐解析と力学系全構造計算法を援用して,自己駆動粒子の軌道構造の理解を目指す.そのために,平成28年度の研究で行った方策を継続し,微分方程式モデルと離散力学系モデルを相補的に用いて研究する.離散力学系モデルは自己駆動粒子の運動を一次元離散力学系としてとらえるため,微分方程式モデルより数学解析が容易である.一方で,著しく単純化したモデルであるため,元の方程式で現れる運動状態を再現できない可能性がある.従って,両者を比較しながら数学解析と数値計算を行うことが肝要であると考えられる.多角形領域における常微分方程式モデルの妥当性を検討する方策として,反応拡散系モデルとの比較を行うことや,反応拡散系から直接中心多様体縮約理論を適用してモデルを導出し,群論的分岐理論の手法を適用することが考えられる.このように,偏微分方程式モデル,常微分方程式モデル,および離散力学系モデルの三つの階層を縦断するアプローチを検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,旅費支出が想定より安く抑えられたことが挙げられる.
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画第二年目は研究発表の機会が増えることが見込まれるため,学会参加のための旅費に使用することを計画している.
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