本課題では「大規模な連立楕円型偏微分方程式の境界値問題の解に対する計算機援用存在証明法の確立」を主たる課題として研究を行った.大規模な連立楕円型偏微分方程式の計算機援用存在証明法には線形化作用素の逆作用素のノルム評価の開発が必須となる.線形化作用素の逆作用素のノルム評価は今まで,1992年に発表されたPlum氏による固有値を利用する方法や,1995年に発表された大石氏の巧みなノルム評価を用いる方法,2005年に発表された中尾氏の直交射影を利用する方法などが存在する. 大石氏の方法や中尾氏の方法は線形化作用素が非自己共役作用素でも容易に利用できるメリットがあるが,評価が荒くなってしまうといった欠点があり,大規模な連立楕円型偏微分方程式には不向きである. また,Plum氏の方法は固有値問題に帰着しゲーリッシュの方法が利用できるため,非常に高精度な結果が得られるが,線形化作用素が非自己共役作用素の場合,重調和作用素が表れてしまい,非常に厄介な問題となる.特に,大規模な連立楕円型偏微分方程式の場合は特別な場合を除き,通常は非自己共役作用素となるため,困難となる. それに対し,本課題の最大の成果として,ラプラス作用素の分数冪をうまく利用することで,線形化作用素が非自己共役作用素の場合でも重調和作用素を避けて固有値問題に定式化する方法を考案し,ゲーリッシュの方法を利用することで,高精度な結果を得られる新しい手法を考案した.ラプラス作用素の分数冪を大規模な楕円型偏微分方程式の解の計算機援用存在証明法に導入すること自体が世界で初めての手法であった. さらに,本手法を用いて,実際の応用問題であるロトカ・ボルテラ方程式の解の計算機援用存在証明法に適用した.
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