研究課題/領域番号 |
16K17656
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷川 衝 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20550742)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 白色矮星 / 中性子星 / 中間質量ブラックホール / Ia型超新星爆発 |
研究実績の概要 |
本研究は、Ia型超新星の親星を高解像度流体シミュレーションを用いて解明することを目的としている。Ia型超新星の爆発本体は白色矮星(White Dwarf: WD) だと考えられているが、爆発のきっかけと爆発の過程は明らかになっていない。本年度は、WDがどのような状況で爆発しうるのかを探った。具体的には以下の通りである。1) 中間質量ブラックホール(Intermediate Mass Black Hole: IMBH)によるWDの潮汐破壊中のWDの熱核爆発の可能性の精査: 過去の研究によってIMBHによるWDの潮汐破壊中にWDが熱核爆発を起こし、Ia型超新星のような突発天体となることが示唆されていた。我々はこの可能性について精査した。それにより、過去の研究で示された熱核爆発は、流体シミュレーションの低解像度性による偽の加熱が原因であることを明らかにした。ただし、WDの潮汐破壊中に熱核爆発が起こることを否定するものではなく、より高解像度の流体シミュレーションを行えば正しい熱核爆発を調べることができることを明らかにした。2) 中性子星(Neutron Star: NS)によるWDの潮汐破壊における熱核爆発の可能性の精査: 過去の研究は、WDがNSに潮汐破壊されると、WDの残骸がNS周りに降着円盤を形成し、その降着円盤から放射性崩壊元素が放出され、WDのNSによる潮汐破壊はIa 型超新星のような特徴を示す、と提案していた。しかし彼らはNSによるWD の潮汐破壊の過程を調べていなかったので、我々はその過程を調べた。その結果、WD は潮汐破壊の過程で熱核爆発を起こし、NSの周りにほとんど降着円盤を作らないことを明らかにした。さらにこの熱核爆発は放射性崩壊元素をほとんど作らない。そのため、WD とNSの合体はIa型超新星のような特徴を示さないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り、様々な状況における白色矮星(WD)の爆発可能性に関して精査することができた。中間質量ブラックホール(IMBH)によるWDの潮汐破壊中の熱核爆発に関する研究結果については、国内国外の研究会で研究発表を行い、また査読付論文雑誌に掲載されることが決定している。中性子星(NS)によるWDの潮汐破壊中の熱核爆発についての結果は、現在投稿論文としてまとめている最中であり、今後投稿する予定である。WD同士の合体についての研究ではなく、WDの潮汐破壊についての研究を優先した理由は以下の通りである。近年、Ia型超新星によく似た突発天体が多数報告されている。これらの起源については全くわかっていない。これらの起源はこれまであまり想定されてこなかった天体系であるIMBHやNSによるWDの潮汐破壊の可能性が高かったので、これらを優先した。また、IMBHは、巨大ブラックホールの形成過程の解明の鍵になるにも関わらず、候補天体は数多くあるものの、確実なIMBHの報告例は数少ない。確実なIMBHの数を増加させるためにも、IMBHによるWDの潮汐破壊の観測的特徴を理解するのは重要である。そのため、このような研究を優先した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、白色矮星(WD)の潮汐破壊中の熱核爆発の可能性について精査した。その結果、中間質量ブラックホール(IMBH)に潮汐破壊される場合は熱核爆発を起こし放射性元素を生成することを明らかにした。一方、中性子星(NS)に潮汐破壊される場合は熱核爆発を起こしはするが、放射性元素を生成しないことも明らかにした。平成29年度は、IMBHに潮汐破壊されるWDの熱核爆発における元素合成を詳細に追いかける。平成28年度の結果からわかるように、このとき十分な解像度の流体シミュレーションを行う必要がある。この結果を用いて、IMBHに潮汐破壊されたWDの熱核爆発がどのような光度曲線を描き、どのようなスペクトルを描くのかを調べる。NSに潮汐破壊されるWDの熱核爆発については、放射性崩壊元素を生成しないことから、突発天体現象としてはあまり明るいものとならないことが予想できる。そのため、こちらの元素合成は追わないこととする。また、WD同士の合体が熱核爆発を起こすかどうかの精査と熱核爆発が起こった場合の元素合成も詳細に求めることを予定している。
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