研究課題/領域番号 |
16K17657
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 祥正 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20586929)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子雲 / 星形成 / 星間化学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、巨大分子雲スケールで見た化学組成が持つ意味を、星形成と銀河スケールのガスダイナミクスとの関連から探求することにある。そのために、(1)銀河系内の分子雲に対するマッピングスペクトル線サーベイと、(2)大型電波干渉計ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)を用いた近傍銀河のイメージング観測の2つのアプローチ方法で研究を進めている。 (1)の研究では、代表的な巨大分子雲W51に対して、Mopra 22m電波望遠鏡を使いて3 mm帯の観測を行なった。観測の結果、分子雲全体で平均して得られたスペクトルのパターンは、系外銀河M51の渦状腕部分のスペクトルと非常によく似ていることが分かった。さらに、全体で平均したスペクトルは、分子雲の外縁部分を含む広がった領域を主にトレースしていることが分かった。一方、分子内部の星形成領域は、輝線強度が強いもののサイズが小さいため、全体で平均したスペクトルにはほとんど寄与しないことが分かった。 (2)については、M83の渦状腕とバー領域を観測したALMAが実行された。届けられたデータを簡易的に解析した結果、渦状腕とバー領域では、CH3OHの存在量に違いが見られた。一方で、他の分子の存在量には大きな違いが見られなかった。これは、銀河スケールのガスダイナミクスにより分子雲同士が相互作用した結果、衝撃波加熱などによりダスト表面CH3OHが蒸発してきたからであると解釈できる。また、M83に加えNGC 3627という銀河でもALMACycle-4で観測提案が採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で必要となる銀河系内の巨大分子雲のマッピングスペクトル線サーベイのデータと、ALMAを使った近傍銀河の観測データは、それぞれ順調に取得されつつある。現在、これらのデータを使い個別の天体について、詳細な解析を行う段階にある。W51の観測結果については既に論文としてとりまとめて投稿済みである。以上の状況から、おおむね計画通りに進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、(1)系外銀河のM83とNGC 3627のALMAのデータを用いて、巨大分子雲スケールの化学組成の多様性の有無について検証する。特に銀河内部の領域の違いと銀河スケールのガスダイナミクスの違いに着目し、化学組成との関連を確かめる。(2)銀河系内の分子雲のマッピングスペクトル線サーベイ観測を、暗黒星雲など巨大分子雲とはタイプが異なる分子雲に拡大する。そのために、国立天文台野辺山45m電波望遠鏡を使った観測を展開する。(3)銀河系内の巨大分子雲の観測結果と近傍銀河の観測結果を比較し、巨大分子雲スケールで見た化学組成が持つ意味を明らかにしていきたい。さらに、これらの研究結果を速やかにとりまとめ、査読論文として出版していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、主に銀河系内の巨大分子雲W51の解析に集中し、ALMAのデータの本格的な解析は実施していない。そのため、ALMAデータの解析に必要な大容量データストレージの購入を見送ったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在解析中のALMAのデータ容量は数TBを超えており、解析の過程でこのデータ容量が数-10倍に増加する。そのため、データ解析用の大容量のデータストレージを購入する予定である。さらに、研究成果を学会等で発表する旅費及び、査読論文出版のための投稿費用として使用する。
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