本研究は、国内外のミリ波電波望遠鏡を用いて、銀河系や近傍銀河における分子雲の化学組成を調べ、分子雲の進化とガスダイナミクスが化学組成に及ぼす影響を探求することを目的としている。IRAM 30m電波望遠鏡とMopra 22m電波望遠鏡を用いた、近傍銀河M51及びNGC3627の円盤領域の分子ガスに対するスペクトル線サーベイ観測と、銀河系内の分子雲W51のマッピングスペクトル線サーベイ観測から、重元素量が同程度の銀河では分子雲スケールで平均した化学組成がよく似ていることを明らかにした。これは、分子雲の化学進化のタイムスケールがどの分子雲も近いタイムスケールであることを示していると考えらる。さらには、これは分子雲の構造とダイナミクスと関連している可能性がある。単一鏡による観測に加え、近傍銀河NGC 3627における分子の空間分布を調べるために、ALMAを使いた観測を行った。近傍銀河の分子雲を空間的に分解することにより、分子雲スケールの化学組成を統計的に調べることが可能になった。その結果、分子雲同士が相互作用している領域において、メタノールの存在量が有意に高くなっていることを発見した。この高いメタノールの存在量は、分子雲同士の衝突により、衝撃波が発生し星間塵表面のメタノールが加熱され蒸発した結果であると解釈できる。これは、分子雲スケールの運動が化学組成に影響することを明確に示しており、化学組成が分子雲スケールの衝撃波のプローブとして利用できることを意味している。
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