研究課題/領域番号 |
16K17661
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
奥住 聡 東京工業大学, 理学院, 准教授 (60704533)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 惑星起源・進化 / 理論天文学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、惑星形成の現場である原始惑星系円盤において、惑星の組成を決定付ける氷昇華線(スノーライン)の位置が惑星形成とともにどのように進化するかを解明することである。本年度は、この研究課題の重要な基礎となる、円盤内の磁場による円盤ガスの加熱のモデル化に着手した。具体的には、原始惑星系円盤の弱電離性に起因する非理想磁気流体力学の3効果(オーム抵抗、ホール効果、両極性拡散)をすべて取り入れた準1次元の磁気流体数値シミュレーションを複数実施し、電離度の分布とジュール加熱の分布がどのように関係しているかを調べた。その結果、ホール効果が卓越する場合は円盤の赤道面に強い磁場が生成され、この磁場のジュール散逸によって円盤赤道面のガスが強く加熱されることを明らかにした。この結果は、原始惑星系円盤の温度構造、ひいては円盤内の氷昇華線の配置が、非理想磁気流体力学の3効果の大小関係に大きく依存することを示唆している。非理想効果の大小関係は、円盤ガスの局所的な物理量、具体的には密度や磁場の強さによって決まる。我々の研究成果は、円盤のスノーラインがガスの密度・磁場分布とともにどのように時間進化するかを、磁気流体力学に根ざした形で正確に予言することを可能にするものである。本研究内容をまとめた論文は、次年度に共著論文として発表する予定である。 上記の理論研究に加えて、電波望遠鏡アルマを用いた原始惑星系円盤の観測に対して理論的な解釈を提供する研究も行った。具体的には、うみへび座TW星の周囲の原始惑星系円盤に、星を中心とする軸対称性なダストリングが複数存在することがアルマの観測によって明らかになった。我々は、昇華線近傍で起こるダストの焼結と呼ばれる現象に着目し、うみへび座TW星のダストリングのうちの1つが窒素氷の昇華線によって形成された可能性があることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁場による原始惑星系円盤ガスの加熱のシミュレーションについては、計画時に期待した通りの結果が得られつつある。今年度中の論文の出版は叶わなかったが、研究自体は順調に進捗していると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
磁気流体シミュレーションの結果に基づき、円盤の電離度分布から円盤の内部加熱率を決定する解析モデルを完成させる。これを用いて、円盤の様々な固体物質(岩石、水氷、一酸化炭素氷、窒素氷)の昇華線が固体物質の成長とともにどのように移動していくかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属大学内の競争的資金(平成28年度のみ)を獲得し、数値計算用の計算機を購入した。今年度の研究実施に際してはこの計算機で十分であったため、計算機購入に充当する予定であった予算を繰り越すことにした。また、国際会議への参加を次年度に延期したため、この分の予算も繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
7月にオランダで開かれる国際会議に参加する予定であり、この旅費に充当する。また、海外の共同研究者の日本への招聘、計算機周辺機器の購入などにも充てる予定である。
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