研究課題
本研究では,大マゼラン雲にある超新星残骸 (SNR) について網羅的な星間分子雲 (CO) および原子雲 (HI) の観測・定量を行い,SNR に付随する星間雲を特定する.さらに特定した星間雲と熱的・非熱的X線放射との比較研究を通して,大マゼラン雲の SNR における衝撃波-星間ガス相互作用と,宇宙線電子の加速機構を明らかにすることが目的である.当該年度は,Mopra 電波望遠鏡を用いて観測した CO データの解析,ならびに付随する分子雲の特定を中心として研究を進めた.以下に具体的な研究実績を示す.(1) 研究対象としてリストした全25個の超新星残骸について,Mopra 電波望遠鏡により得られた CO データの解析を行った.その結果,90% の SNR で 12CO(J=1-0) 輝線を3σ以上の有意度で検出することができた.そのうち少なくとも10天体については,分子雲の空間分布が熱的・非熱的X線シェルによく対応していることがわかった.衝撃波-星間雲相互作用を検証するうえで,重要なサンプルとなる.(2) SNR N132D について,CO J = 3-2/1-0 輝線強度比を用いた解析を行った.結果として,強度比が有意に高い領域が見つかった.衝撃波による分子雲の加熱を示唆している.また,当該領域は非熱的X線強度が強い.衝撃波-星間雲相互作用により,効率よく宇宙線電子が加速されている可能性がある.(3) SNR 複合体 30 Doradus C について,付随する星間雲を特定した.ガンマ線放射強度との比較を通して,SNR で加速された宇宙線電子/陽子の全エネルギーを定量した.また,付随する分子雲のうち1つから放射される陽子起源ガンマ線量を推定し,宇宙線加速理論モデルから導かれるそれと比較した.結果として,次世代ガンマ線望遠鏡 CTA を用いることで,各分子雲から放射される陽子起源ガンマ線が,空間的に分解・検出できることを示した.宇宙線陽子の起源解明につながる成果である.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,大マゼラン雲にある25個のSNRに付随する星間雲の特定を行い,衝撃波-星間雲相互作用や宇宙線加速機構の解明を目的としていた.当該年度のうちに,少なくとも10天体については,分子雲が確かに SNR に付随していることを突き止めた.そのうち2天体についてはさらに詳しい解析を行い,衝撃波-星間雲相互作用の証拠や,非熱的X線との密接な関係も明らかになりつつある.成果は申請者が主著の論文として出版済みである (Sano et al. 2017).以上の点から,当該研究は概ね順調に進展していると判断した.
Mopra 電波望遠鏡を用いて観測した CO データの解析を行うことで,大マゼラン雲の SNR に付随する星間雲の存在が確実なものとなってきた.一方で,現時点での CO データの空間分解能は十分とはいえない (~ 11 pc).なぜなら SNR と相互作用する分子雲の典型的なサイズは ~ 3 pc 程度であるからだ (Moriguchi et al. 2005).従って,さらに高空間分解能の CO 観測が欠かせない.すでに電波望遠鏡 ASTE や電波干渉計 ALMA を用いた観測提案が受理されており (申請者が PI, Co-I),これらのデータを取得および解析する手はずは整っている.また,今後は原子雲についても精査を行う必要がある.銀河系内の SNR の場合,分子雲と同程度の原子雲が付随しているケースがあったためだ (Fukui et al. 2012; Sano et al. 2016).さらに,X線のスペクトル解析を行い,熱的X線フラックスや,宇宙線電子の最大エネルギーの空間分布を明らかにする必要がある.これを星間雲分布と比較することで,大マゼラン雲の SNR における衝撃波-星間雲相互作用の理解,そして宇宙線電子の加速機構解明を目指す.
次年度使用額が生じた主な要因は,当該年度の外国旅費への支出を削減できたことにある.具体的には,共同研究者からの渡航滞在費のサポートほかを受けられたこと,NANTEN2 電波望遠鏡を用いた観測のための南米チリ共和国への出張を1回削減できたことに起因する.
来年度は,国内外の研究者との密な議論を通して,研究をさらに拡充させていく必要が出てきた.具体的には,X線のスペクトル解析に関わる議論や,大マゼラン雲の SNR における HI データの観測および解析に関わる海外渡航 (西シドニー大学ほか) についてである.これらの旅費として,次年度使用額を充当する計画である.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 6件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
AIP Conference Proceedings
巻: 1792 ページ: 1-6
http://dx.doi.org/10.1063/1.4968942
Proceedings of the IAU
巻: 29B ページ: 737, 737
http://dx.doi.org/10.1017/S1743921316006608