本研究は、超新星の爆発的元素合成計算に従来使われてきた簡易爆発モデルとは本質的に異なる、セルフコンシステントな超新星モデルを構築し使用することが特徴である。まず初年度に、ニュートリノによって駆動される重力崩壊型超新星爆発の2次元数値計算を実行した。ニュートリノ輸送にはIsotoropic Diffusion Source Approximation (IDSA)と呼ばれる先進的な近似法を用い、親星の重力崩壊から原子中性子星と衝撃波の形成・ニュートリノ放射・衝撃波の膨張にともなう外層の加熱に至る一連の過程を、約10秒間にわたって計算することを可能にした。親星として11.2-28太陽質量モデル10個を採用し、超新星爆発の数値シミュレーションで得られたデータを基に核反応ネットワーク計算を実行して、爆発的元素合成量を算出した。とくに陽子過剰核であるモリブデンとルテニウムに注目して解析したところ、それぞれ異なる環境で生成されていることがわかった。得られた組成比は、太陽系組成と興味深い一致を示した。 また、今回の長時間計算では元素合成量と同時に超新星ニュートリノや重力波に関するデータも得られた。これを応用して銀河系内超新星からのマルチメッセンジャー信号や超新星背景ニュートリノについて解析・議論した。異なる観測コミュニティ間の連携の重要性など、将来の観測計画に向けて非常に有益な提言をすることができた。 一方で、今回の空間2次元計算では赤道方向からの質量降着が止まらず、多くのモデルで中心の原始中性子星質量が2太陽質量を超えたり、ニュートリノ放射が著しく非等方になるなどの問題が見られた。これは元素合成にも影響を及ぼす。現実的な空間3次元での長時間計算が強く望まれる。
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