研究課題/領域番号 |
16K17669
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
濱野 哲史 京都産業大学, 神山天文台, 研究員 (70756270)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 星間有機分子 / 赤外線高分散分光 / 星間物質 / フラーレン |
研究実績の概要 |
本研究は、星間空間における巨大有機分子の性質・起源・反応過程の解明に向けて、有機分子の電子遷移吸収バンドと考えられている "diffuse interstellar bands" (DIB) の赤外線高分散分光観測からDIBを引き起こしている未知の星間有機分子の性質を明らかにし、その同定を目指すものである。 本年度は、まず星間物質の研究で最も代表的な天体のひとつである「はくちょう座OB2星団」の観測的研究を行った。この研究では京都産業大学神山天文台の荒木1.3m望遠鏡に搭載された近赤外線高分散分光器WINEREDを用いて同星団内の複数の大質量星について高精度な赤外線スペクトルを取得する事に成功し、星間有機分子によって生じるDIBの一部が星団内の大質量星による紫外線によって変成を起こしている様子を初めて捉えた。また、他方で強い紫外光に影響を受けず強度が互いに強く相関を示すDIBのグループも発見し、これらのDIBが紫外光に対して乖離や電離を起こしづらい非常に安定な有機分子によって生じている事を示唆した。本研究はDIBの多様性・紫外光による影響を明らかにしたものであり、将来的なDIBを引き起こしている有機分子同定に向けて鍵となる情報を得られたものと考えている。 また、高精度な赤外線スペクトルから微弱なDIBの吸収を新たに数多く検出する事に成功した。赤外線領域におけるDIBは、フラーレンなどの巨大有機分子による吸収が期待されるなど近年重要性が増してきているが、技術的制約などによりDIBの検出が進んでこなかった。本研究により検出されたDIBは今後の化学実験による分子同定におけるベースとなり、今後の研究の進展に寄与するものと期待される。 これらの成果は投稿論文や国際研究会などで定期的に発表を進めており、特に化学研究者との学際的な研究会において積極的に交流を図ってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まず研究全体のベースとなる「大規模な赤外線高分散分光観測」および「解析プログラムの開発」を中心に行った。近赤外線高分散分光器WINEREDを用いて、秋頃まで観測を継続的に実施し、概ね目標としていた質・量のデータの取得を完了する事ができた。なお、WINEREDは本年度終わり頃にヨーロッパ南天天文台により運営されているラシヤ天文台・NTT3.58m望遠鏡(チリ共和国)に持ち込み装置として移設されることとなった。そのため、当初の研究計画には組み込んでいなかったが、本研究の更なる推進のため今後NTTでの観測を進めることを計画している。すでに本年度中に観測提案をヨーロッパ南天天文台に申請し承認を受け観測時間を得ており、H29年度中に観測を実施する予定である。これまでよりも大口径の望遠鏡を用いた観測により、より多くの天体について高精度な観測を実施する事が可能になる上、マゼラン雲などの南半球でしか見る事ができない重要天体を観測する事が可能となった。 また、観測で得られた画像データをほぼ自動で高精度に解析できるパイプラインソフトの開発も大部分を終える事ができ、現在精度評価を開始している。また、当初H29年度に実施を予定していたDIBの包括的な検出や高精度なプロファイルの導出について前倒しで検討を進め、一部は成果も出ており全体としては概ね計画通りに推移している。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、本研究課題は当初の計画通りに推移しており、基本的には計画に変更は無い。これまでに取得された観測データについてはH29年度前半のうちに解析を進め、H29年度後半からH30年度にかけて考察・成果発表を進めていく。当初の研究計画からの変更点としてNTT3.58mに移設されたWINEREDを用いた新たな観測・および解析が追加されたが、観測自体は短期間であり観測・解析ではWINEREDの装置チームからの協力も得られるため研究計画に大幅な遅れは生じないものと見積もっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に追加的な変更が生じ、H29年度よりチリ共和国での天体観測を複数回実施する事となった。チリ共和国は日本から非常に遠く旅費を工面するため相当額残す必要がある。そのためH28年度においては日本での開催されている国際研究会に参加するなどし、H29年度以降の観測旅費のために相当額を残したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
チリ共和国での観測旅費は1回あたり40-50万円ほどかかるものと見積もっており、H29年度中に2回観測を実施する事を計画している。次年度使用額はそのうちの1回分の旅費に当てる予定である。
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